選手とファンを繋ぐトス&ハイタッチ! 久光スプリングス選手考案ダンスで最高来場者数を更新

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社内の部門間を横断した企画、垣根をどう越えたのか

ダンスの振り付けにもあるハイタッチはもともと久光スプリングスの応援歌のタイトル名にもなっているなど、チームのキーワードとしているものだった 【提供:久光スプリングス】

――今回の施策自体に話を戻しますと、久光スプリングスさんは今シーズンからホームアリーナも練習拠点も佐賀県に一本化することになりました。チームとしても新たなスタートという意味も込められての今回の取り組みだったのでしょうか?

小早川 そういう意味では練習拠点も鳥栖に新たに作って、SAGAアリーナという九州最大級のエンターテインメントアリーナで試合ができるというところで、私たちが一番懸念していたのはお客さんに来ていただけるかどうか。これが大きな課題でした。SAGAアリーナでの最初の開幕戦にどれだけの人に注目されて、会場にお越しいただいて、楽しいバレーボールを体験してもらえるかどうかというところが成否を分けるなと思っておりました。ですので、今回の企画で、まずはいいスタートが切れたと思っています。

――社内で部署を横断して動いた企画だとも思うのですが、団体やチームによってはその部署の連携がなかなかうまく取れないこともあるかと思います。久光スプリングスさんではそのあたりのハードルはどのように越えられたのでしょうか?

小早川 代表の萱嶋章からは「社内で共有することが大事だ」と常々言われているんですね。それで今共有するという課題意識はみんなが持っていて、今回の企画については木村も頑張って選手と一緒にダンスを決めてくれましたし、選手、運営、広報と垣根を越えて成果を出せた一つの良い例だと思います。すごくいい成果が出た一つの例だと思います。

森田 最終的には同じ目的を持っていても、達成のための手段や目標は立場によって違うので、少しずつズレていくこともあります。ですので、お互いの立場を思いやりながら、共有を繰り返すことに尽きるのですが、どうしてもなかなか難しいものです。

それでも一番良かったのは、本当に最高記録を作りたい――これだけはみんな変わらずに共通していたことです。そのために何かをするんだったらみんな協力するという思いが、みんなをひとつにしたと思いますね。目の前に分かりやすい一つの目標を作ったことが、部門間の共有や連携をするためには非常に価値があったのではないかなと思います。

――そうして施策を進める中、多くの人に会場に来ていただくためには事前のプロモーションなども必要だったかと思います。この『一緒に楽しくトス&ハイタッチ』に関しては何か特別なプロモーションなどはされたのでしょうか。

森田 これがなかなかギリギリのスケジュールでして、『一緒に楽しくトス&ハイタッチ』というダンス自体は開幕戦の直前に出来上がったものでした。ですので、例えばこれをプロモーションとして集客に……というところまでは使いきれなかったというのが正直なところです。ただし、『さいこう記録へみんなでトス』というコピーワードは早めに作り、「みんなでトス」のイベントを開幕戦でやります、ということだけは何も決まっていない段階から告知していました。夏の8月に行ったバレーボールフェスというイベントで発表し、SNSや各メディアでのプロモーションで積極的にこのフレーズを発信し、開幕戦に向けた流れを作っていきました。

――なるほど。では、ちょっと変な言い方になって申し訳ありませんが、開幕戦のトスのイベントに関しては「来てからのお楽しみ」みたいなところも少しあったという感じですかね。

森田 そうですね。直前に「このダンスやりますよ」と告知して、一気に動画などをアップしていったというところです。事前のプロモーションには使いきれませんでしたが、当日の楽しみと、その後に繋がる施策にできたと思います。

「久光の曲が流れたよね」今季を象徴するコンテンツに

開幕戦はハロウィンの季節ということもあり、試合後のアフターイベントでは選手もプチ仮装してノリノリのダンス! 【提供:久光スプリングス】

――実際に目標通りに最高記録を更新した時はどのような気持ちなりましたか?

森田 チケットの売れ行きからある程度の来場者数予測をたてていましたので、これぐらいにはなるかなと想像しながら開幕戦を迎えたのですが、実際にどれだけのお客さんが来てくださるかというのはなかなか不安なところもありました。本当にこのプロジェクトを進めていくにあたって、非常に多くの方々を巻き込み、協力をいただいたというところも大きかったので、最低限でも最高記録を達成しないわけにはいかない、というぐらいの感覚を全員が持っていたと思います。ですので、正直ホッとしたという気持ちが大きかったですが、本当の目標は会場キャパシティに近づく8,000人超え満員での最高記録達成でした。そこには届かないと分かった時はただ悔しかったです。

それでも、本当に会場がチームカラーのスプリングスブルーに染まって、ファンの方々がとても楽しんでくれたと思います。「私たちは佐賀に戻ってきました」ということを多くの人に感じていただき、「満員の会場でバレーボールを楽しんでほしい」という目的は達成できたかなと思います。

――これだけたくさんのお客さんが来てくれた大きな要因はどこにあったのか、施策を振り返ってどのように捉えていらっしゃいますか?

森田 何か一つだけに絞ることは難しいですが、自分たちだけが頑張って告知をして、広告を打って、宣伝をしてというだけでは限界があったと思います。多くのパートナーの皆様、佐賀県・鳥栖市という行政の皆様、事前準備から運営・演出に関わるすべての皆様のお陰です。あとは何といっても選手自身が、プレーするだけではなくて本当に満員の会場にしたい、たくさんの方に見てほしいという想いを発信してくれたことが、これだけ多くの来場に繋がったんじゃないかなと思います。

――『一緒に楽しくトス&ハイタッチ』のダンスは試合に勝った後のアフターイベントで選手とファンが一緒になって踊るとのことですが、開幕戦限定というわけではなくて、今シーズンずっと継続してやってきたのでしょうか?

木村 はい、そうです。ホームゲームで勝った後には毎回同じダンスをやっています。

――ダンスに対するファンの皆さんや地元の皆さんの反響はいかがですか。

木村 私が一番感じたのは、うちのホームゲームではない天皇杯・皇后杯などでも同じ曲が会場内で流れた時に、SNSでも、「久光の曲ながれたよね」という投稿や、会場にいるファンの方が踊ってくれてたんです。選手たちはさすがに試合中だったので踊ることはないですが、サポートメンバーの選手たちは「あっ!」って顔をしていました。そうやって違う会場でもファンの方が覚えて踊ってくれているというのはすごく嬉しいことだなと思います。

――そのようなシーンを見ると、もうバレーボールファンの間ではすっかり浸透しているという感じですよね。

森田 当初は開幕戦で来場者数の最高記録を出すための企画ということで考えていましたが、思った以上に選手たちも楽しんでくれて、ファンの人たちも喜んでくれたので、今シーズンずっとやっていけるねと。お客さんも選手もどんどん楽しんでくれていましたので、今季は継続していったというところがあります。

――今シーズンの久光スプリングスさんを象徴するコンテンツにまでなったということですね。

森田 はい。そうなって良かったなと思いますね。

小早川 会場でもお客さんが踊っている姿がビジョンに映るんですね。その姿がとても素敵で、本当に盛り上がって、楽しそうにされているんです。やっぱりコロナ禍の中で応援の声出しもできなかったですし、手拍子ぐらいしかできない時期が続きました。どうやってホームゲームに参加してよいのかわからないお客様もいらっしゃったと思います。今回のダンス企画はあっという間に会場全体をイベントに引き込み、チームと会場をつなぐ施策としてすごく良い企画になったなと思いました。

ダンスでファンが笑顔になる、かけがえのない体験に

ファンと選手を繋いで笑顔になる――双方にとってかけがえのない体験となった 【提供:久光スプリングス】

――そうですね。コロナ禍のスポーツ観戦はたぶん、コートの中とお客さんの間では少し温度差があったのではと思います。そして、いざコロナが明けても応援や盛り上がる方法を忘れちゃったみたいなところもあったと思いますけれど、今回のダンス企画のように選手とお客さんを繋ぎ、一体になって盛り上がるのはまさにスポーツ観戦の醍醐味だと思いますし、本当に素晴らしい企画だなと思いました。改めて今シーズンのこの施策を振り返って、何か感じたところがありましたら教えてください。

小早川 今シーズンから練習拠点もホームアリーナも佐賀になり、私たちができることはまだまだたくさんあると思っています。佐賀、鳥栖市のこの地域にバレーボールを通じて活力や、元気をお届けできるように、SAGAアリーナでのこうしたホームゲームをエンジンにして、もっと広く、県内・市内の方々に私たちの活動を知っていただいて、 そこから一緒に地域を盛り上げていけるようにできたらいいなと思っております。

森田 私は「久光スプリングス自体がエンターテインメント」だと考えています。新しいSAGAアリーナへの興味関心も大きかったとは思いますが、他のエンタメコンテンツに頼り集客するのではなく、「久光スプリングス」の魅力と価値で企画をつくり、満員の会場で記録を達成できたことが非常に良かったなと思います。

木村 バレーボールチームである以上はやっぱり選手たちにはバレーに注力をして、勝ち切る、その姿をファンの方たちには見てもらいたいという思いがあります。選手たちもプロとしてその自覚を持っています。ですが、試合前後のオン・オフのギャップがすごかったり、コートを出たら普通の女の子たちという面もあるんです。もしかしたらバレーをしている子たちから見たら選手は雲の上の存在なのかもしれません。今回のダンスのようにバレーボールを置いたら一緒のコンテンツで盛り上がって、いろんなことを一緒に楽しめる人なんだと身近に感じてもらえることができていたら、すごく嬉しいなと思います。

今回の企画は、楽しみながらともに盛り上げてくださったファンの皆さんにも本当に感謝をしています。また、記憶に残るようなダンスを考えてくれた濵松選手、そして嫌な顔をせず、満員にしたい、自分たちのホームゲームを自分たちで盛り上げたいと激闘の試合後もノリノリで踊りファンの皆さんと一体となり、最高の空間を作り上げてくれた選手たちにも感謝しています。また、バレーの練習の合間に撮影の時間等を作り、理解をしてくれた監督・コーチはじめチームスタッフの協力なしではできない企画でした。ファンの皆さんへの想いだけでなく、私たち運営側のことも考え、気持ちを汲み取り行動に移してくれる素敵な選手・チームスタッフたちと働けていることはとても恵まれており、幸せだなと個人的に改めて感じました!

――ありがとうございます。もしかしたらファンの方からは「来シーズンはどんなダンスができるんだろう」という期待の声が挙がるかもしれないですし、久光スプリングスさんといえばホームゲームのダンスというイメージができるかもしれません。プレッシャーをかけるわけではありませんが(笑)、 また選手とファンが一緒に盛り上がる企画を楽しみにしております。本日はありがとうございました。

小早川&森田&木村 ありがとうございました。

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