高校バスケ男子決勝は4年ぶりの「福岡対決」 福岡大大濠と福岡第一の注目選手、スタイルは?

大島和人

タフな連戦を乗り越えた福岡第一

崎濱秀斗(写真右)は福岡第一のエース 【写真は共同】

■福岡第一の勝ち上がり
1回戦:76-65 vs.仙台大学附属明成
2回戦:74-62 vs.北陸学院
3回戦:108-81 vs.東海大学付属諏訪
準々決勝:74-71 vs.東山
準決勝:94-65 vs.藤枝明誠


 福岡第一はしぶとく、逞しく勝ち上がってきた。県大会の決勝リーグで福岡大大濠に敗れ、今大会は1回戦で「ベスト8級」の仙台大明成と対峙(たいじ)する高いハードルを課せられた。準々決勝も東山有利との下馬評を覆し、18点差から逆転して74-71と勝利した。

 チームのエースは崎濱秀斗。福岡県大会は負傷して不在だった彼が、12月からチームに復帰している。176センチ・80キロと「幅」のある体格で、トリッキーかつパワフルなドライブと高確率の3Pシュートを持つPGだ。3回戦の東海大諏訪戦では35点を決め、準々決勝の東山戦も勝負どころで試合を決める3Pシュートを沈めるなど、最大の得点源になっている。

 崎濱は第17回「スラムダンク奨学金」の奨学生に決まっていて、24年4月から渡米する予定。コロナ禍の2020年からオンライン英会話講座で勉強を地道に続けていて、留学生選手と会話できる英語力の持ち主でもある。

 もう一人のキーマンがPFの世戸陸翔。193センチ・87キロとそこまで大柄ではないが、リバウンドの争奪で身体を張りつつ、脚力や万能なオフェンス力も持つタイプだ。

「大きくても走る」のが今年の福岡第一

 福岡第一といえば河村勇輝、並里成のような優秀なスモールガードを輩出してきたチーム。クイックネス、スピード、運動量を生かしたプレッシャーDFと速攻を武器にしてきた。ただ今年のチームには「プラスアルファ」がある。世戸はこう述べる

「自分たちの代はサイズ、リバウンドの強さがあって『大きくても走る』のが特徴だと思います」

 崎濱の他にも山口瑛司、森田空翔ら180センチ前後のアウトサイドプレーヤーが揃い、アピアパトリック眞のような4番、5番をこなせる日本人ビッグマンもいる。センターのサー・シェッハは準決勝の出場時間が22分19秒にとどまったが、福岡第一はアピアやディアロ・ティディアニも含めてビッグマンの選手層が厚い。これは大会の終盤になると生きてくる部分だろう。

 サー・シェッハはアウトサイドの選手を助けるスクリーンなど「スタッツに反映されないプレー」の貢献度が高い2年生センター。彼に限らず福岡第一の留学生は伝統的に献身的で、他の選手を活かせるタイプが多い。

 その理由を井手口孝監督はこう説明する。

「特別扱いを一切せず、一緒に成長しようという方針です。部の仕事、例えば掃除も全て同じにさせていいます。留学生も遅刻してきたら『今日は練習しないでお掃除をしなさい』となることもある。ほとんど選手が同じアスリートコースですけど、留学生というよりクラスの仲間です」

 福岡第一は105名の部員がいて、これは高校バスケ界では異例の多さだ。井手口監督への信頼や過去の実績に加えて、入部希望者を断らないポリシーを貫いているからこその人数だろう。とはいえコートに立てるのは5名で、人数が増えることから生まれる難しさもあるはずだ。しかし今年から加わった原田裕作コーチなど、手厚いスタッフ陣が井手口監督とともにチームを支えている。

「きっといい試合になる」

4年前の福岡対決は福岡第一が制している 【写真は共同】

 福岡第一は河村勇輝や小川麻斗を擁して2018年、19年のウインターカップを連覇しているチーム。今大会は必ずしも本命ではなかったが、崎濱の復帰や12月に入ってからの成長でタイトルに手が届くところまで来た。

「前回(2019年)は福岡対決を意識しましたけど、明日は大濠という強い学校と試合をする気持ちで、僕も福岡第一の一監督としてやりたい。ただ県大会とは違う、それぞれが成長してのこの場なので、きっといい試合になると思います」(井手口監督)

 福岡大大濠と福岡第一は同じ福岡のライバルだが、スタイルは正反対と言っていいほど違う。大人のようにプレーする福岡大大濠に対して、福岡第一は攻守にアグレッシブで「高校生らしい」プレーをする。福岡第一が例年より大型とはいえ、サイズ的には福岡大大濠に利がある。下級生が多くコートに立つ福岡大大濠に対して、福岡第一はサー・シェッハ以外の主力全員が3年生だ。ただ決勝戦は高校生が全力で、控え部員も含めて熱意を持ってこの競技に打ち込んだ集大成であることに違いはない。

 片峯監督、井手口監督はどちらもジョークを交えて記者を楽しませる話術の持ち主だが、決勝戦に向けてこんなコメントの応酬もあった。

 先に試合を終えた片峯監督はこう述べていた。

「第一さんと全国でまたここでやるとなったら僕は多分、寝られないでしょう。胃も痛くなるし……。第一さんだったら明日の僕は(目の下の)『隈』が全開だと思います(笑)」

 そのコメントを知った井手口監督はこう返していた。

「決勝まで来れたことが儲けものだと思っているので、ここでもう1試合させてもらえることに感謝して、ぐっすり寝たいと思います」

 果たして指揮官たちはどんな夜を送ったのだろうか?大一番の開始時間は12月29日の13時だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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