カリスマ指揮官の退任で青森山田はどう変わった? 深化させた“山田らしさ”で冬の覇権奪回へ
12月10日のプレミアリーグファイナルを制し、選手たちに胴上げされる青森山田の正木監督。名将・黒田監督の後任という重圧を跳ねのけ、まずは1冠を手に入れた 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
注目度が高いなかでもいたって自然体で
今シーズンの語り落とせないトピックスとしては、指揮官の交代が挙げられる。チームを28年間にわたって指揮してきた黒田剛・前監督が、プロの指導者に転身してFC町田ゼルビアへ。それに伴い、青森山田中の監督として全国大会4連覇を成し遂げた上田大貴も教員を辞し、黒田を支えるために町田へと旅立った。
昨シーズンの選手権予選が終わった11月に、“移行期間”という形ですでにヘッドコーチから昇格していたとはいえ、正木昌宣新監督にとっては今年が実質1年目。カリスマ的な存在だった前指揮官の後任だけに、注目度は非常に高かったと言える。
だが、本人はいたって自然体だった。
「黒田前監督とは19年も一緒にやってきたので、そのなかで築いてきた良いところは本当にいっぱいありますし、そこはしっかりと引き継ぎながら、という形ですよね。ちょっとした攻撃のパターンぐらいは自分の色も出せると思うんですけど、今までやってきた青森山田が間違いなく日本で一番の組織だったので、そこは停滞させずに、さらに良いものにしていこうというなかで、“山田らしさ”は残しているかなという気はします」
主将の山本をはじめ複数のリーダーが存在
現チームのキャプテンを務めるのがCBの山本だ。かつての松木玖生のような強烈なリーダーシップこそないが、ムードメーカーでチームに与える影響力も非常に大きい 【松尾祐希】
その言葉からも分かるように、今年の青森山田には複数のリーダーが存在し、それが重要な特徴となっている。キャプテンを務めるのは、小泉と最終ラインでコンビを組むCBの山本虎(3年)。その立ち姿には風格も漂うが、たとえば藤原優大(町田)や松木玖生(FC東京)といったOBたちのように、強烈なリーダーシップでチームを牽引していくタイプではない。
春先に正木監督が明かした、キャプテン選出の理由が興味深い。
「みんなが『キャプテンは虎がいい』って言うから。僕は菅澤(凱/3年)とか芝田(玲/3年)あたりも考えたんですけど、チームに対する影響力が一番大きいのが虎みたいなんです」
グラウンドでの印象から背中で引っ張るタイプかと思いきや、山本はムードメーカー的な側面も持ち合わせているという。分かりやすいキャプテンではないところに、むしろ人間的な魅力が滲む。
逆に強いリーダーシップでチームを牽引するのは、中盤の司令塔を務める芝田だ。昨年からボランチの定位置を確保してきた「10番」は、「自分は思ったことが全部口に出ちゃいますし(笑)、あまり抑え込みたくないんです」と言いながら、「自分が弱気になったらチームとしても終わりだと思っています」と明確な覚悟を携えている。
また、左サイドバックを主戦場に、ボランチでもプレー可能な菅澤も、発信力の高さが目を引く。
「自分はとにかくチームの雰囲気が良くなるように盛り上げるというか、そういうリーダーシップを発揮したいと意識してきました」
関西出身の明るさと“うるささ”が、このチームに与えているポジティブな影響は見逃せない。