星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録

星野仙一の強運と剛腕、GMとしての能力 87年ドラフトでの立浪和義1位指名の理由とは?

中田宗男

即戦力投手の指名を見送り、1位で高校生ショートの立浪を獲得した星野監督。この決断が、のちの「ミスタードラゴンズ」誕生につながった 【写真は共同】

「星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した」。スカウト歴38年、闘将とオレ竜に仕え、球団の栄枯盛衰を見てきた男が明かすドラフト舞台裏。
中田宗男著『星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録』から、一部抜粋して公開します。

自信がなかった立浪の1位指名

 星野政権1年目を2位で終えたシーズンのドラフト。前年オフにただでさえ薄かった投手陣から牛島、平沼、桑田の3投手を落合さんとのトレードで放出していたこともあり、シーズン中はピッチャーの駒不足に苦しんだ。そんなこともあり、スカウト部では早くから即戦力投手の獲得を目指して動いていた。白羽の矢が立ったのは慶応大の右腕・鈴木(89年西武2位)だった。スカウト部長、田村さんが福島高時代から追いかけていたこともあり、この年の1位は「慶応大・鈴木哲」で大方決まっていた。星野さんから即戦力投手の要望があったわけではなかったが、それでも鈴木の1位には同意してくれているようではあった。

 しかし、その方針は早い段階で方向転換を余儀なくされた。夏が始まりかけた頃、鈴木側からプロ入り拒否が表明されたからだ。中日の1位指名は白紙に戻されることになった。

 この頃、関西地区担当だった私は、PL学園高の立浪を1位で推すか逡巡していた。守備が抜群に良く、足はあまり速くないが肩もある。打つほうもバットが振れて小力もある。私の好きなタイプの選手であり、欲しいという気持ちはもちろんあった。だが1位でいくかと言われると自信がなかった。小柄な体格で体力的な不安もあった。本音で言えば2位で残っていれば獲りたいという評価だった。南海が1位でいくという話も耳にしていたので、中日には縁がないかもしれないと思っていた。
 
 そんなとき、星野さんから「PLの立浪ってどうなんじゃ?」と聞かれた。

「立浪はいいですよ。守備だけならすぐ使えます。でも南海が早うから1位でいくと言うてますけどね」

 そう答えた私に、星野さんは言った。

「1位じゃないと獲れないのか。よしわかった。立浪、えぇやないか!」
 
 私は「えっ⁉ 」と驚いた。中日のショートには宇野勝がいる。立浪を獲っても使ってもらえなければ意味がない。

「でも監督、うーやん(宇野)と競争させたら(総合的には)勝てないですよ」

「宇野の歳を考えてみい。あと何年ショートができるんじゃ?立浪は守備やったらすぐ使えるんだろ?」

「はい。使えるか使えないかで言えば使えます」
 
 私はこのとき、星野さんが開幕から立浪をショートで使うとは夢にも思っていなかった。
 
 スカウト会議で正式に立浪1位指名が決まったとき、星野さんは私にこう発破をかけた。

「(立浪が獲れたら)宇野はコンバートさせる。それぐらいの気持ちで(立浪を獲りに)いけ」
 
 星野さんはこの年のドラフトでも強運を発揮し(あるいは高木さんの願掛けがまたしても効いたのか)、南海との抽選となった立浪を見事に引き当てた。
 
 立浪の守備力に惚れた星野さんは宣言通りにキャンプで宇野をセカンドにコンバートさせ、開幕戦のスタメンショートで起用した。立浪も期待に応えて高卒新人ながら新人王を獲得。その後の活躍は改めて記すまでもないだろう。
 
 星野さんが目先のシーズンだけを見ていたら、鈴木の代わりに他の即戦力投手が1位指名されていたことだろう。そうなっていれば、後の「ミスタードラゴンズ」の指名はなかったのだ。

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