J1月間MVP 湘南・富居大樹が明かす安定感あるパフォーマンスの秘訣「秋元さんからたくさんのことを学んだ」

舞野隼大

試合前日の夜は鯖を絶対に食べる

かつて湘南の守護神を務めた秋元からサッカーに取り組む姿勢などを学んだという 【(C)J.LEAGUE】

――富居選手は久しぶりに出場した試合でも、パフォーマンスがブレない印象があります。コンスタントに試合に出られない状況でもプレーの波をなくすためどんなことを心がけていますか?

 自分が試合に出るつもりで、常に試合から逆算して日々過ごしていて、そこは自信を持って言えます。だから間が空いて急に試合に出たとしても結果を残せるのかなと思います。

――GKというポジションは頻繁に選手を入れ替えるわけにいかないため、そうしたメンタルを保つのは難しくないですか?

 もちろん、全部が全部ポジティブにやれているわけでもないです。ネガティブになる時もありますけど、GKというポジションは一つしかなくて、試合に出られない選手は僕だけじゃありません。出られない選手は他にもいるなか、僕はGK最年長選手でもあるので、そういう(周りに悪影響を及ぼすような)態度は絶対に取りたくないです。僕が背中で示して、「湘南ベルマーレのGKのレベルを上げていく」といった心構えでやれているから、日々しっかり練習できているんだと思います。

――北海道コンサドーレ札幌(9月16日の第27節/○1-0)では、体調を崩していた富居選手に代わって出場した馬渡洋樹選手が高いパフォーマンスを発揮してゴールを守り抜きました。

 馬渡選手も立川(小太郎)選手もそうですけど、難しい状況でも日々変わらずポジティブにトレーニングしています。そういう姿勢はすごく尊敬できるし、僕も「しっかりやらなきゃいけないな」という気持ちにさせてもらえます。そうした振る舞いが結果にもつながっているんだと思います。

――富居選手は以前、秋元陽太さんから大きな影響を受けたと話していましたが、どんなことを学びましたか?

 すごくたくさんのことを学んだので、これ一つというのはなかなか難しいですね。秋元選手はサッカーにすべてを懸けて取り組んでいる選手でした。朝早くからクラブハウスに来て準備をしていて、練習後もしっかりとトレーニングをしていたから、試合であのパフォーマンスを発揮できていたのだと思います。秋元さんの姿勢から日々の過ごし方を改めて教わりました。

 2019シーズンの終盤戦は僕が試合に出させてもらっていたんですが、秋元さんは悔しい気持ちが当然あるなかでもやることは変わっていなかったですし、その上で僕にもアドバイスをしてくれていました。本当に尊敬できるし、感謝できる存在です。

――富居選手がお手本にしているGKは?

 東口(順昭/ガンバ大阪)さんは尊敬していて、プレー集をよく見ています。シュートをすごく止める選手で、一歩伸びるセービングもそうですし、ポジショニングもうまくて予測がすごく長けています。「シューターの身体の向きや、ボールの持ち方を見て(どこにシュートが飛んでくるか)予測しながらプレーしているんだろうな」と思うシーンがあるので、そういうところを参考にさせてもらっています。

――試合前、ルーティーンにしていることはなにかありますか?

 いっぱいありすぎるんですけど……試合前日の夜は鯖を絶対に食べるようにしています。栄養士さんから「鯖を食べると反応がよくなる」と言われて食べるようになったんですけど、もう食べすぎて効果がよくわからないです(笑)。でも、鯖のおかげでこの賞にたどり着いたかもしれないですね。

 あと、特に理由はないですけど、左から靴ひもを結んだり、GKグローブをはめるようにしています。ピッチにも左足から入るようにしていて、小さい頃からずっと左にこだわっています。

湘南には愛着しかない

山形から18年に湘南に加入して6年目。シーズンを通してレギュラーとなったことはないが、縁の下の力持ち的な存在として欠かせない 【(C)J.LEAGUE】

――チームのことも聞かせてください。終盤戦になって、成績が上向いてきた要因についてはどう感じていますか?

 一人ひとりにやるべきことの迷いがなくなったからですね。監督の要求が高かったので、うまくいってない時はいろんなことを考えすぎてしまっていたように見えました。でも今は、湘南らしくハツラツとしたプレーができている。後ろから選手が湧き出て、どんどん前にいく感じが多くなっていることが要因だと思います。それに後ろの選手だけでなく、全体として身体を張れるようになった印象もすごくあります。

――今季は中断期間明けのサンフレッチェ広島戦(8月5日の第22節/○1-0)まで、一度もクリーンシートがありませんでした。

 以前はシュートに対してもう一歩寄せてほしいシーンがあったんですけど、ディフェンスの選手も中盤の選手も今は寄せ切ってくれることでシュートが枠に飛んでこなくなりました。個人名を出すと、夏に入ってきた(キム・)ミンテが試合中にすごく鼓舞してくれて、それがピッチに立っている選手のエネルギーになっているんじゃないかと思います。

――湘南に在籍する選手は全員、クラブへの愛着が強いイメージがあり、これまでもその想いで苦境を乗り越えてきた印象があります。富居選手自身は、チームにどんな感情を抱いていますか?

 愛着しかないです(笑)。不甲斐ないシーズンを過ごすことになってしまったなかでも、サポーターの人たちはすごく応援してくれているし、僕たち選手はそれに応えなければいけないです。長くこのチームにいることで、そういう優しさに甘えているところもあるのかなとちょっと反省もしつつも、ベルマーレには感謝しかないので、プレーで応えたいとずっと思っています。

 最後はこういう形で離脱してしまい、今はピッチで力になることはできないですけど、怪我をしたらしたなりのできることがあると思っています。「このクラブのために」という気持ちがあれば自ずと行動にも表れるはずですし、クラブのためにやれることをやりたいです。

――18位・横浜FCとの直接対決も控えていますが、残りの2試合に向け、チームメイトにはどんなことを伝えたいですか?

 自信を持って、今までやれていたことをピッチでしっかりと出せれば、結果はついてくるはずなので、心配はしてないです。楽しんでプレーしてくれれば絶対に大丈夫だと思っています。

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著者プロフィール

1995年12月15日生まれ。愛知県名古屋市出身。大学卒業後に地元の名古屋でフリーライターとして活動。名古屋グランパスや名古屋オーシャンズを中心に取材活動をする。2021年に神奈川県へ移り住み、サッカー専門誌『エル・ゴラッソ』で湘南ベルマーレやSC相模原を担当。(株)ウニベルサーレ所属。

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