書籍連載『THE RISE 偉大さの追求、若き日のコービー・ブライアント』

「まだ早い」と断言されたコービーのNBA入り ドラフト指名権24位のレイカーズ入りへの策略

ダブドリ編集部

【Photo by Vince Compagnone/Los Angeles Times via Getty Images】

 父ジョーからはバスケットボールを、母パムからは規律を学んだコービー・ブライアントは、幼い頃からコート上でその才能を輝かせていた。しかし、13歳でイタリアからフィラデルフィアに戻ったコービーは、バスケットボールという競技だけでなく、逆カルチャーショックやイタリアから来たよそ者というレッテルとも戦うことになってしまうのだった……。

 マイク・シールスキー 著『THE RISE 偉大さの追求、若き日のコービー・ブライアント』はNBAレジェンド、コービー・ブライアントがフィラデルフィアで州大会優勝を成し遂げ、レイカーズに入団するまでの軌跡を描いています。この連載では、コービーの高校時代を彩るさまざまな要素を一部抜粋の形でご紹介します。
 1996年のドラフトに参加したコービーは謎に満ちていた。三月の時点でドラフトに参加予定である旨をジョー・カルボーンに伝え、彼をトレーナーとしてフルタイムで雇った。

 ジョー・ブライアントは同じくラサール大学の卒業生で、ヨーロッパでプロ選手としてプレーしたこともあり、シクサーズのスカウティング・ディレクターを務めていた友人のトニー・ディレオに、コービーのドラフト前ワークアウトを頼んだ。

 セント・ジョセフ大学のフィールドハウス・アリーナで毎日一時間ほど、ディレオはコービーに300本ものシュートを打つドリルを課した。ドリブルからのシュート、移動しながらのシュート、スリーポイントラインからのシュート。コービーが三本連続で外すことがあれば、それがどこであろうと、ドリルを最初から始める必要があった。

「彼の内なる意欲を目にしたのはその時だった。偉大になりたいという意欲だ」とディレオは振り返った。「ミスをすると苛立って、またやり直したがった。彼は容赦なかった」。

 しかしリーグ内のチームは、コービーと彼のポテンシャルについて正直なところどう思っていたのだろうか? テレムにはハッキリとはわからなかった。

 ミネソタ・ティンバーウルヴズの選手人事ディレクターのロブ・バブコックは、コービーを否定的な意味でケヴィン・ガーネットと比較した。

「211センチある選手としてのケヴィンの能力は圧倒的で、すぐにそれが見てとれた。彼はかなり特別な選手だ。コービー・ブライアントを見ても、そういうものは感じられない。彼のプレーは『自分は特別な才能の持ち主です』と宣言するようなものではない」

 デンバー・ナゲッツの大学スカウティング・ディレクターであるジョン・アウトローは「彼にはまだ早いと思う」ときっぱり断言した。

エージェント・テレムが講じた策略

 1995―96シーズンに18勝64敗の戦績を残したシクサーズは、ドラフトロッタリーで当たりを引いて全体一位指名権を手に入れていたが、他に上位一巡目指名権を持っていたチームのほとんどがスモールマーケットのチームだった。

 もしコービーがバンクーバーやインディアナポリス、もしくはクリーブランドに行くことになれば、コービーとAdidasはいずれもお互いへの投資を最大限に生かすことができなくなる。「俺はレイカーズでプレーしたかった」とコービーは言ったが、レイカーズはドラフトの順番では24番目だった。コービーが彼らを求めていたのと同じように、彼らがコービーを欲しがっているのであれば、もっと高順位の指名権を手に入れる方法を探さなければならなかった。

 そこでテレムは、周りのコービーに対する疑念を利用することにした。「我々にはまたとないチャンスがあることに気づいたんだ」と彼は振り返った。

 ジョー・ブライアントは、ドラフト候補生の中でもコービーは上位に入るとテレムに主張した。候補生のうち、コービーがどの辺りに位置するのかをより正確に把握するために、テレムは高順位の指名権を持つチームとのワークアウトを手配したが、それもすべてのチームとではなかった。特定のチームとのワークアウトを拒否し、彼らがコービーをじかに評価する機会を与えないことで、テレムはそのようなチームがコービーを指名することに対して尻込みするように仕向けることができたのだ。

 エージェントが舞台裏で行っている陰謀に関係なく、残された選手の中で一番良いとされる選手を指名する傾向のある現在のNBAでは、その作戦は上手くいかなかっただろう。しかし、これは現在のNBAではなかった。1996年のことだった。若いクライアントの指示を受けて、テレムが一連の過程を操作するという考えに反感を示す者もいた。この若造は一体何様のつもりなんだ?

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著者プロフィール

異例の超ロングインタビューで選手や関係者の本音に迫るバスケ本シリーズ『ダブドリ』。「バスケで『より道』しませんか?」のキャッチコピー通り、プロからストリート、選手からコレクターまでバスケに関わる全ての人がインタビュー対象。TOKYO DIMEオーナーで現役Bリーガーの岡田優介氏による人生相談『ちょっと聞いてよ岡田先生』など、コラムも多数収載。

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