「高卒NBA志望」を決めたコービー 異例の記者会見が巻き起こした議論
【Photo by Al Seib/Los Angeles Times via Getty Images】
マイク・シールスキー 著『THE RISE 偉大さの追求、若き日のコービー・ブライアント』はNBAレジェンド、コービー・ブライアントがフィラデルフィアで州大会優勝を成し遂げ、レイカーズに入団するまでの軌跡を描いています。この連載では、コービーの高校時代を彩るさまざまな要素を一部抜粋の形でご紹介します。
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「わかってるだろ」とコービーは言った。「俺はそういうのは別にどうだっていいよ」。
しかし、ジョーとパムにとっては大事なことだというのは感じ取れた。正式な発表をすればコービーの決断に正当性や信用を与えることになるとはいえ、両親は彼が何をどう言うかに固執しているようだった。何しろ他人にとってこのような場は、彼らが才能ある息子をどう育てたかを推察し、人によっては評価を下す絶好の機会だった。
ジョーが提案をしてから一週間、彼とパムはコービーに向かって、大人らしさと落ち着きとユーモアのバランスをきちんと保つようにと、しつこく確認した。
「『俺より緊張してるよ』と言ってちょっとからかってやったよ」とコービーは後に言った。
「俺にとっては、本当にそんなに大したことじゃなかったんだ」
記者会見がいつ、どこで開かれるかについてもどうでも良かったのでジョーに任せたところ、ジョーは月曜日の午後に決めた。
ほとんどの手配はトリートマンがすべて担当し、トム・マガヴァーンと一緒にその場に集まる記者や生徒たちのために体育館の準備をし、会見があることをメディアに連絡した。コービーの決断については、聞かれても答えなかった。そもそも答える必要はあっただろうか? この時点でデュークかラサールへ行くのであれば、わざわざ記者会見を開くだろうか?
クラスメイトたちは何か少しでも情報を得ようと、午前中ずっとコービーに話しかけた。
「コービー、午後はラクロスの試合があるんだ。先に教えてよ」
彼らに対してはプロムのことと同じぐらいNBAについても口を固くして、まだわからない、その時になったらその場で決めると答えていた。
ジュエリーの彫金の授業では、作っているはずのブレスレットのことをしばし忘れて他の生徒たちが彼を囲み、先生までもがコービーの会話や曖昧な答えに耳を澄ませていた。友達のディアドラ・ボブが「どうするつもりなの?」と彼に尋ねた。
「わからない」とコービーは答えた。「どうしたらいいと思う?」。
「正直、友達として言うと、進学すべきだと思う。あなたはその才能を失うことはない。その才能は神に与えられたもので、どの大学に進学しようと、そのチームで一番の選手になれる。NBAにはいつでも行ける」とボブは言った。
また別の授業を受けていると、リン・フリーランドが彼を見つけ出し、呼び出した。グレッグ・ダウナーは記者会見の場にいるつもりだったが、いずれにせよコービーが口にしなくても発表の内容はわかっていた。
フリーランドはコービーに、ドリュー・ダウナーに電話をかけて自分で伝えたいかを尋ねた。
「ご案内願います」とコービーは答えた。
フリーランドはコービーを生徒指導の事務所へと連れて行き、ドリューの電話番号を渡すと、カウンセラーや秘書たちに席を外すように頼んだ。部屋を出てドアを閉じながら、彼女はコービーが「大人と一緒にプレーしに行きます」と言うのを耳にした。
「彼に理解してもらいたかったのは」とのちにドリューは語った。
「これは何年も経って、彼が大人になってからも会うたびに言い続けていたのは、『我々は君のことを大事に思っている。人として、気にかけている』ということだった。特にあいつがNBAの悪役(ヴィラン)になってからはそうだった。誰かと喧嘩になりたくなかったから、サウス・フィリーに出向いてシクサーズの試合を観に行くのを辞めたんだ。
私は自分がやったことを大げさに言うつもりはない。あいつを守ろうとしたんだ。大人であろうと心がけた。変なやつが「この雑誌の山にサインしろ」と言ってきても、私は「何者だ?」と聞き返していた。何も見返りを求めなかったということも信頼につながった。彼から何かを期待したことはなかった」
授業時間があと一限だけ残される中、コービーは英語の授業を休んで準備のために帰宅した。パムは着るものを選ぶのを手伝っていた。
コービーは白いシャツに茶色のシルクタイ、そしてロン・ルーバーとその家族が『次なるキャリアでの幸運を祈るため』に贈ったベージュのシルクスーツを選んだ(ルーバーが500ドル以上したそのスーツを購入した時、セールス担当は「彼のウィングスパンが7フィート2インチ(※約218センチ)だって知ってましたか?」と尋ねた)。
その衣装を完成させるべく、コービーは額の上に黒い楕円形のデザイナーサングラスを乗せた。「あれは俺のアイディアだったんだ」と彼は後に話した。「サングラスは大好きだったから、『何か新しいことを流行らせてみよう』と思ったんだ」。