「高卒NBA志望」を決めたコービー 異例の記者会見が巻き起こした議論
決定的瞬間を“演出”してみせる
ジョーは片手に大きな携帯電話を持ち、もう片手で額の汗を吹いた。コービーは休んだ英語の授業についてあとで教えてくれと、マット・マトコフに頼んだ。孫のせいで皆が騒ぎ立てているのを見たコービーの祖母が「うちの可愛い子にアップルパイを焼いてあげないとね」と言うと、コービーは顔を上げた。
「いいね、おばあちゃん」と彼は言った。
「二つくらい作ってよ」
コービーは、建物に入った時は何を期待すべきかわからなかった。体育館は満員になっていて、全員が彼の話に耳を傾けるために集まり、コービー・ブライアントがコービー・ブライアントにとって何が最善だと思っているかを聞くためにその場にいた。そしてそれは……楽しかった。心から楽しいと思った。
発表の瞬間を見返すと面白い。体育館の深い茶色の観覧席はニュートラルな背景を作り出し、どんなカメラアングルからでも彼を縁取っていた。
完璧に自信に溢れたコービーは講演台に立ち、その胸元にはマイクの束が置かれていた。家族やコーチ陣、チームメイト、クラスメイトたちは記者団に混ざって座ったり立ったりして、彼が話すのを大勢が待っていた。
「僕、コービー・ブライアントは……」
一呼吸置き、まるでディフェンダーを振り払うように頭を揺らした。
「……自分の才能の行き先を……うーん……」
また一呼吸。今度はまるでまだ決めかねているか、忘れたか、その両方かのようなフリをした。何か考えているかのように左手を顎に当て、カメラに向かってその決定的瞬間を精一杯演出して見せた。
そして満面の笑みになって言った。
「なんちゃって。僕は、大学に行かず、自分の才能をNBAで発揮したいと思います」
全部で19秒間だった。その後、大歓声に包まれた。
コービーの会見が巻き起こした議論
ディアドラ・ボブは一日の授業を終えて体育館に来ていた。コービーが大学へは行かないと聞いて、彼女は少しがっかりした。「わかったよ、コービー」と彼女は思った。
「自分に自信があるのね。でも自分がそうしたいなら、私は応援するし、祈っている」
タウンシップにあるシナゴーグ(※ユダヤ教の会堂)のラビであるニール・クーパーは、コービーを批判する説教をした。高等教育の価値と大切さを蔑ろにし、若者に間違ったメッセージを送ってしまうと話した。フィラデルフィア・インクワイアラー紙のビル・ライオンは「これは全て胸が温まるような、素晴らしいことだ。しかし、彼は17歳でもある。子を持つ父親として、私にはただ一つ懸念していることがある。彼が自分の青春を自ら手放してしまわないことを願う」。
コービーの話題は、途端にスポーツ・トークラジオ番組で討論の対象となり、まるで朝晩の通勤時間に合わせてアツアツで届けられる怒りの電子レンジ食品のように議論が交わされた。
「あの記者会見が非常識だと思った人も、恐らくたくさんいただろう」とグレッグ・ダウナーは言った。
「スポーツをよく知らない人の中には、理解に苦しむという人もいた。あの建物の中には、何事なのかわかっていない人もいた。私にはわかっていた。これは、ただ背の高くてアスレチックなバスケットボール選手の会見ではなかったんだ。これは別の何かだった」。
書籍紹介
【写真提供:ダブドリ】
本書はNBAレジェンド、コービー・ブライアントがフィラデルフィアで州大会優勝を成し遂げ、レイカーズに入団するまでの軌跡を描いています。コート上の話だけでなく、アメリカの黒人文化や社会構造、また大学リクルートの過程などさまざまな要素が若きコービーに影響を与える様が綿密に描かれているファン必携の一冊です。