J2甲府はACLでも奇跡を起こせるか? グループ首位浮上に導いた選手起用と戦術

大島和人

3点目は「3人目の動き」から崩す

右SB関口正大が見事な走り込み、シュートで3点目を決めた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 試合を実質的に決めた58分の3点目は、中村から見て新潟明訓高の1年後輩に当たる右サイドバックの関口正大が決めたゴラッソだった。右サイド深くに侵入した宮崎純真がボールを後方に下げると、関口は敢えてスルーして大外から斜め前方のスペースに走り込む。マークを迷ったDFを振り切った関口は飯島陸のパスを受け、ゴール右から狭いコースを射抜いた。

 関口は言う。

「篠田監督からも『3人目の動きは狙っていこう』という話があった。飯島がいいところに出してくれて、そこに侵入できた。ファーに打つよりは上に強い球を、思い切り振ろうと打ったのがいいところに飛んでくれた」

 甲府は89分にも途中交代の鳥海芳樹がゴールを決め、4‐1で快勝してみせた。

J2とACLの相乗効果

篠田監督の選手起用も成功している 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 リーグ戦とACLの両立は、長距離移動と強行日程をチームに強いる。それはチームを壊しかねない難しい挑戦だ。ただし甲府はここまで二つの戦いをしっかりやり切っている。

 篠田監督はJ2とACLの相乗効果、相互の刺激を口にする。

「リーグ戦と並行してACLに参加していますけど、リーグ戦の選手たち、リーグ戦に出ていなくてACLに出る選手たち、そしてまたACLで出なかったリーグ戦の選手たちという具合に、さらにモチベーション高くリーグ戦に臨んでいる。本当にいい形で毎試合を迎えている。非常にいい流れだなと思っています」

 ACLではチームキャプテンも任されている関口はこう分析する。

「二巡目に入ったところで、しっかり前節の反省を生かして、4点を取って勝ったのは良かった。リーグ戦も佳境に入ってきている中、並行して戦っていますが、うまく相乗効果を出せている。チーム全体で勝とうというところで、いい循環が起きているのかなと思います」

甲府が示すJ2の底力

 甲府は最高の状態で、勝負の11月に入っている。12日のJ2最終節・モンテディオ山形戦も、勝てばJ1昇格プレーオフ出場が決まる大一番だ。彼らはACLとJ2の「二兎」を追い、その両方に手が届くところまできている。

 2022年の天皇杯をJ1クラブに5連勝して制したとはいえ、甲府はJ2のクラブだ。中村も鹿島でなかなか出番を得られず、期限付き移籍で甲府に返された選手。個々の年俸や知名度を比較すれば彼らはJ1勢に間違いなく劣る。しかしそんなチームが2つの大会に真正面から挑戦し、堂々と戦っている。篠田監督と選手たちの奮闘はあるにせよ、J2の底力を感じる快進撃だ。

 仮に甲府がグループステージを突破し、2024年に開催されるノックアウトステージを勝ち上がってACLを制したならば、それは天皇杯制覇を凌ぐ世界的快挙だ。我々もそんな『夢』を見るくらいは許されていいだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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