慶応義塾戦の9回表は「今も見ることができない」 横浜高校・杉山遙希が語る3年間の歩みとこれから

大利実

帽子に書いた『未完成』の言葉。自分の可能性を信じて、高みを目指し続ける 【大利実】

 名門のエースナンバーを背負い続けた左腕が、静かにその時を待つ。

 横浜高校の杉山遙希は、スピンの効いた直球とチェンジアップを中心とした変化球を巧みに投げ分け、1年夏の甲子園から背番号1を託された。今年のU-18W杯でMVPを獲得した盟友・緒方漣とともに、下級生時から横浜の主力として活躍。2年連続で夏の甲子園に出場したチームの中心には、常にこの2人の存在があった。3年夏の神奈川大会では、決勝の慶応義塾戦で9回に逆転3ランを浴び、あと一歩のところで3連覇を逃した。しかし、杉山は終盤まで140キロ中盤に迫るストレートを投げ込み、投手としての確かな成長を示した大会でもあった。

 次のステージに進むべくプロ志望届を提出し、11球団から調査書が届く中、26日に迫ったドラフト直前で何を思うのか。その心境を追った。(取材日は10月13日)

慶応戦の9回表に戻れるとしたら…

――ドラフト会議が近付いてきましたが、今はどんな心境ですか。

杉山 日に日にドラフトのことを意識するようになって、正直、ドラフトのことばかり考えています。「選ばれたい」という気持ちが強い分、不安もすごく大きくて、今は「ただ待つしかない」って感じです。

――期待と不安では、不安のほうが大きい感じですか。

杉山 そうですね。何位で指名していただけるのかなという不安もあります。上位で行きたい気持ちはあるんですけど、この3年間の成績を考えると厳しいのかなとは思っています。

――プロを本気で目指したのはいつ頃からですか

杉山 3つ上の兄の影響で野球を始めて、小学生のときはイチローさんに憧れていました。その頃から「プロ野球選手になりたい」と夢を見ていたんですけど、本気で考え始めたのは高校1年の夏に甲子園で負けてからです。智辯学園に打たれたことで、「もっと成長して、上のレベルで野球をやりたい」という気持ちが大きくなりました。

――そこから、日々の練習に取り組む中で、大切にしてきたことはありますか。

杉山 ダッシュの1本、シャドウピッチングの1球も無駄にせず、練習で100パーセントを出し切ることです。2年秋の関東大会で負けて、センバツに出られなかったときは多少気持ちが落ちてしまうこともあったんですけど、「甲子園で投げたい」「プロに行きたい」と自分を奮い立たせてやってきました。

――ピッチャーは目立ちやすいポジションだと思いますが、一番の醍醐味は何だと思いますか。

杉山 自分が投げた球によって勝敗が決まることです。それが、一番の醍醐味であり、楽しさでもあります。自分のピッチングで勝てた試合は達成感がありますし、負けたときに批判されるのもピッチャーだからこそだと思います。2年夏の決勝の東海大相模戦(1対0で完封)や、秋の関東大会の浦和学院戦(2対0で完封)は、とても嬉しい勝利でした。

――今年、神奈川3連覇を目指した3年夏は、決勝まで勝ち進むも、9回表に慶応義塾の渡邉千之亮選手に逆転3ランを浴びて敗れました。

杉山 たまに、ビデオで見返すことがあるんですけど、9回だけはどうしても見られません。ホームランを打たれたことが、負けの原因だと思っているので、ピッチャーである自分の責任です。

――仮に同じ場面に戻れるとしたら、どんな選択をしますか。

杉山 打たれたのは、フルカウントから高めに浮いたチェンジアップ。球種の選択は間違っていないと思うので、もっと低めに、「フォアボールでもいい」という気持ちで投げるべきでした。昨年秋の健大高崎戦でも、同点の8回1アウト満塁から、カットボールが甘く入って長打を打たれています。勝負がかかった大事な場面で、自分のベストボールをいかに投げられるか。どうしてもピンチになると焦ってしまうところがあるので、気持ちを抑えて、メンタル面をコントロールすることが、これからの課題だと思っています。

リリースの感覚を変えてから平均球速アップ

3年夏は最終回に逆転3ランを浴びて準優勝。野球を続ける限り、悔しさを忘れることはない 【写真:著者提供】

――夏を終えてみて、「もっとこうやっておけば良かったな」と考えることはありますか。

杉山 それはないです。取り組んできたことに関しては、やれることは全部やってきたと思います。

――そう言い切れるのは素晴らしいですね。

杉山 ストレートの平均球速、変化球のキレ、投球術など、全体的に良かったと思います。

――慶応義塾戦は、終盤になっても140キロ台前半~中盤をマークしていましたね。

杉山 MAXだけではなく、平均球速を上げることにこだわってきました。8回に先頭打者を出してから、三者連続三振の場面が自分としては一番良かったところで、3人目の渡辺憩をストレートで見逃し三振に取ったのはベストボールでした。

――143キロまで出ていました。平均球速を上げるために、どんなことに取り組んできましたか。

杉山 下級生の頃はウエイトトレーニングをやっていなかったんですけど、2年生の冬に週2日ほどウエイトを入れるようにしました。そこで体が強くなったことと、トレーナーさんに体の使い方をイチから教わり、フォームが安定してきたのが大きいと思います。

――2年の冬から3年夏にかけて、特に掴んだことはありますか。

杉山 リリースの感覚です。ストレートを投げるときに、小指側が少し前に出てしまうために、スライダー回転しやすいクセがありました。U-18代表候補合宿(4月)で、ラプソードで回転数を測ったときに2570回転ぐらいあったんですけど、回転効率が悪くて、自分ではずっと気になっていました。トレーナーさんと相談して、中指でボールの内側を切るイメージを持つようになってから、ボールの回転軸が安定し、力も上手く伝わるようになったと思います。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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