慶応義塾戦の9回表は「今も見ることができない」 横浜高校・杉山遙希が語る3年間の歩みとこれから

大利実

神奈川決勝で慶応義塾のポーズをやり返す

切磋琢磨し、互いに刺激し合ってきた杉山遙希と緒方漣 【大利実】

――慶応義塾が優勝した夏の甲子園はテレビで見ていましたか。

杉山 少し見ていました。でも、やっぱり、「あの場で投げたかったな」と悔しさが湧いてくるので、決勝戦も少ししか見られませんでした。自分たちが負けた慶応が日本一になったことで、余計に悔しさを感じます。

――その後のU-18は、チームメイトである緒方漣選手が活躍して、MVPも受賞しました。杉山投手も代表入りを狙っていたと思いますが……。

杉山 緒方の活躍を見るために、ちょっと見ていましたが、そこに自分がいない悔しさはありました。高山(大輝)コーチから「最終選考で落ちた」と聞いて、正直悔しかったです。神奈川大会で負けてからも、代表入りを目指して練習していたので、落選を聞いたときに高校野球が終わった感じがしました。

――こういう話からも感じますが、基本的に、「負けず嫌い」ですよね。

杉山 はい、かなり。

――神奈川の決勝では、甲子園でも話題になった慶応義塾の3本指のポーズを、慶応側のベンチにやり返していましたよね。たぶん、この夏、あれをやり返したのは杉山投手だけじゃないかと。

杉山 はい(笑)。結構、慶応のベンチがメガホンを持ちながら、自分に対して激しい言葉をかけてきたので、やられっぱなしでは終われないなと。自分がやったのを見ていたんですか?

――もちろん。6回の3アウト目にやっていたのを、カメラマン席から。

杉山 母親が、「杉山が慶応のポーズをやり返した」という呟きをツイッターで見たみたいで、写真を探していました。

――その呟き、私です(笑)。写真は撮り逃しました……。負けず嫌いの原点はどこにあるのでしょうか。

杉山 お兄ちゃんの存在だと思います。小さい頃からいつも競争していて、負けるたびに悔しくて泣いていました。結構、感情を出すほうだったので。

――3つ上だとなかなか勝てないでしょう。お兄さんは共栄学園で野球をやっていたそうですね。

杉山 夏の決勝で負けたあと、学校で報告会があったんですけど、家族の顔を見たら、悔しさと申し訳なさで涙がこぼれてきて……、家族もみんな泣いていました。お兄ちゃんからは、「2回も甲子園に連れてきてくれてありがとう」と言ってもらいました。

――泣ける言葉ですね。3年間、家族以上に一緒にいたチームメイトはどんな存在でしたか。

杉山 自分は結構人見知りで、環境に慣れるのに時間がかかるタイプです。高校に入った当初、環境の変化もあって、食事がなかなかとれずに体重が74キロから69キロまで落ちたこともありました。よく声を掛けて絡んでくれたのが鈴木楓汰で、だいぶ助けてもらいました。寮では、緒方と一緒の部屋になることが多くて、野球に対して意識の高い緒方がいてくれたから、自分も頑張れたのはあると思います。

――今日(取材日)のシートバッティングでは、木製バットの緒方選手との対決がありました。初球、カーブでカウントを取ったあと、ストレートでショートゴロ。おそらく、緒方選手はストレートを狙っていましたね。

杉山 そう思ったので、カーブです(笑)。最近、カーブを練習していて、良い感じになっているので、緒方で試してみたかったんです。

プロで活躍してONE OK ROCKのTAKAに会いたい

――ストイックに野球に取り組んでいるイメージがあるのですが、野球以外の趣味はありますか。

杉山 音楽を聴くことです。寮でも、よく音楽を聴いて、リラックスしていました。今は実家から通っているんですけど、部屋にはスピーカーがあって、音楽を聴きながら掃除をするのが好きです。

――よく聴くのは?

杉山 ONE OK ROCKです。お兄ちゃんがよく聴いていたんですけど、その影響で好きになりました。試合に行く前のバスでも聴いていて、気持ちを高めています。ボーカルのTAKAさんがカッコ良くて、大好きなので、いつか会いたいです(笑)。乗れる曲もあれば、落ち着いた曲もあって、もう全部好きです。

――もし、プロに入って、登場曲を選べるようになったら……。

杉山 間違いなく、ONE OK ROCKを選びます。

――活躍したら、会えるチャンスが広がるかもしれませんね。

杉山 慶応の丸田(湊斗)がヒゲダン(Official髭男dism)のファンで、パーソナリティーをしているラジオにハガキを出したら、直接読んでもらえたという記事を見て、羨ましかったです。じつは今度、11月にあるONE OK ROCKのライブを、お兄ちゃんと初めて見に行くんです。U-18の落選が決まったのが8月17日の朝だったんですけど、同じ日にライブチケットの当選がわかって、そのおかげで気持ちが上がりました。めちゃくちゃ楽しみです。

――ドラフトで指名を受けて、晴れ晴れとした気持ちで行きたいですね。最後に、今後の目標を聞かせてください。

杉山 理想にしているのは、DeNAの今永昇太投手のピッチングスタイルです。コントロールが安定していて、ストレートのキレも良い。特に、カウントを取る変化球と、空振りを取る変化球を使い分けているところを参考にしています。

――杉山投手は帽子にもグラブにも、『未完成』という言葉を入れていました。今、自分の完成度はどのぐらいだと思っていますか。

杉山 高校の時点では、90パーセントぐらいまでいったと思うんですけど、将来的なことを考えると、まだまだ50~60パーセント。これから、ウエイトトレーニングにも力を入れていくことで、体も変わってくると思っています。プロでは、球界を代表するピッチャーになるのが目標です。慶応戦のあの1球、あの悔しさを忘れることは絶対にありません。大事な試合で勝ち切るピッチングをして、悔しさを少しでも晴らせればと思っています。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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