J2制覇に向けて苦しむ町田が甲府戦で見せた新機軸 5試合ぶり先発の19歳MFが示した指針とは?

大島和人

19歳の宇野禅斗は8日の甲府戦でチームを救う活躍を見せた 【(C)J.LEAGUE】

 J2はJ1よりひと足早く、11月12日に最終節を迎える。残り4節の勝負どころで、首位に立っているのがFC町田ゼルビアだ。

 しかし、その町田が苦しんでいる。勝ち点「72」で2位・清水エスパルスに勝ち点5差をつけ、しかも1試合多く残しているのだから、優勝や昇格に向けた最短距離にいるのは確かだ。ただ直近の5試合は1勝2分け2敗と負け越している。前半戦21試合をわずか12失点で終えたクラブが、10月1日のいわきFC戦は3失点を喫して敗れた。

変化に踏み切った町田

 8日のヴァンフォーレ甲府戦は、黒田剛監督がかなり大胆な変化を選択した試合だった。まず、町田はいわきFC戦から先発を6名も入れ替えた。GKポープ・ウィリアム、DF奥山政幸、藤原優大、MF下田北斗、宇野禅斗、荒木駿太が新たにスタートから起用された。布陣も[4-4-2]でなく[3-1-4-2]を採用している。2列目中央のシャドーに宇野と荒木を置くかなり『前がかり』な布陣だ。

 結果は3-3のドロー。97分に宇野が同点ゴールを決めて勝ち点1を確保し、連敗は免れた。この時期の勝ち点1は重く、相手が強敵・甲府ということを考えても悪い結果ではない。ただ、決してすっきり喜べる展開ではなかった。

 試合後の会見で、黒田監督はこのように戦術的な説明している。

「(甲府は)ビルドアップが上手な相手で、そこを規制して、判断を奪えないだろうかと考えました。もっと積極的に、前からボールを奪いに行きたかった。前回のいわき戦で(守備の)噛み合わせが悪く、我々のフォワードの下、1.5列目のところでなかなか(セカンドボールを)拾えなかった反省を受けて、そこで拾える、潰せる状況を分かりやすくしました」

 守備で相手を早めに潰し、セカンドボールへ素早く反応することがまず布陣変更の要因だった。さらに町田は攻撃面でも相手を押し込みつつボールを握る、動かすチャレンジをしていた。リスクを避けたロングボールの多用や外回しでなく、シャドーの2人が『間』で受け、高い位置で前向きにボールを受ける状況を作ろうとしていた。そこからサイド、FWが絡むことで決定機も多く作った。

 戦術的な大枠についていうなら、おおよそ成功だった。町田としては珍しくボールの保持で相手を上回り、枠内シュートの本数は圧倒していた。特に攻撃面はトレーニングからの積み上げを証明した90分だった。チーム作りの中で、新しい戦術的な引き出しを見せた試合だった。

追加点を逃して試合を難しく

黒田監督は試合後の会見で「3点目」に言及していた 【(C)J.LEAGUE】

 しかし、試合中の修正で後手を踏んだ。町田が2-1とリードし、甲府が4バックから3バックへ変更した終盤に守備が崩れ、一度は逆転されている。82分、92分の2失点はロングボールから揺さぶられ、セカンドボールを収められ、余ったワイドの選手に仕留められる形だった。前重心の守備が効いていた中で、はっきりと引くジャッジが遅れた。MFが戻らざるを得ない状況を作られ、組織が乱れてしまっていた。

 もっとも黒田監督が試合後に悔いていたのは守備、攻撃の両面だった。町田は41分に勝ち越しゴールを決め、後半も攻勢に立ちながら、トドメを刺せなかった。そこも勝ち切れなかった大きな要因だ。

「シュートは17本で、ウチの方がコーナーも多かった(11本vs.0本)ので、3点目を早く取りたかった」(黒田監督)

 荒木は守備に加えて、攻撃を円滑にする『リンクマン』の働きを見せていた。一方でいい形で決定機に絡み、3本のシュートも放ちながら、ゴールを奪えなかった。

 彼はこう悔いる。

「決定機が前半にも後半にもあったけれど、そこを決めるか決めないかで試合は決まる。確実に決めて、試合展開を楽にしないといけなかった」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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