ダンクもできる異色のPG佐々木隆成 大野HCの導きで脇役からB1三遠の「エース」へ

大島和人

佐々木は7日の開幕戦で23点を記録した 【(C)B.LEAGUE】

 ポイントガード(PG)はバスケットボールの花形だ。そしてBリーグの日本人PGを見ると、FIBAバスケットボールワールドカップ2023(W杯)で活躍した河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)と富樫勇樹(千葉ジェッツ)を筆頭に、魅力的な人材が揃っている。佐々木隆成もそんな一人だ。

 彼は三遠ネオフェニックスのメインPGとして、昨季(2022-23シーズン)から台頭を見せている。一言で表現するなら高いスキルを持ち、ドライブや3ポイントシュートから得点に絡む攻撃的なガードだ。他のPGと明らかに違うのは運動能力の高さだろう。180センチ・77キロの体格はこの競技だと小柄だが、ダンクシュートを問題なく決める圧倒的な跳躍力を持っている。

 本人いわく「垂直跳びは得意でない」とのことだが、大学の授業中には走り高跳びで195センチを記録しているという。スピードに恵まれた佐々木は、助走が入ると「最高到達点」が一気に上がるタイプだ。

開幕戦でステップアップを見せる

 三遠が川崎ブレイブサンダースと戦った10月7日のB1開幕戦では、佐々木が23点を挙げて86-75の勝利に大きく貢献した。翌8日の再戦はチームこそ71-84で敗れたが、彼は17点を記録。3ポイントシュートは試投4本で3本を成功させている。

 川崎は昨シーズンの中地区王者だ。メインPGは2021-22シーズンのMVP藤井祐眞で、同じポジションには元日本代表キャプテンの篠山竜青もいる。ふたりとも守備力の高いタイプだが、佐々木は五分以上に渡り合っていた。

 佐々木も三遠も、昨季の時点で「片鱗」は見せていた。ただ佐々木は負傷により昨季の後半戦はほとんどプレーできていない。チームも中地区首位に立った時期があった一方で、選手の相次ぐケガにより失速。後半戦30試合は9勝21敗にとどまり、最終的には23勝37敗で中地区6位と沈んだ。

 今季の三遠は怪我人が復帰し、コティ・クラーク(前名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)のような強力な外国籍選手も加入。チーム全体に期待を持てそうな気配が漂っている。

 開幕戦に勝利した後の会見で、佐々木はこう語っていた。

「去年は川崎さんに1回も勝てていなかったので、勝てたことにほっとしています。夏から自分たちがやろうとしてきたことを開幕戦で出せたのは、自分たちのステップアップにつながります」

 大野HCはチームの『上積み』をこう述べる。

「コティ(・クラーク)の加入も大きいですけど、(佐々木)隆成と(大浦)颯太の2カードで、自分たちがボールの動かない場面も対応できるようになった。(ガードが)一番の強みになれると思っています」

加入直後は「ボールを離したがっていた」

大野HCの後押しが佐々木を変えた 【(C)B.LEAGUE】

 27歳の佐々木は山口県立豊浦高から天理大に進み、大学時代は特別指定選手で大阪エヴェッサでもプレーしていた。彼の名がファンに知れたのは2020年に加入した熊本ヴォルターズ時代で、2021-22シーズンはFG成功率54.6%・3P成功率40.4%・FT成功率92.2%という「50-40-90」を達成して話題になった。その後2022-23シーズンから三遠に移籍し、今季は2シーズン目を迎えている。

 茨城ロボッツの中村功平は佐々木の同級生だ。中村もB1でプレーするPGだが、小2の佐々木をこの競技に誘った『幼馴染』で、小中高とすべて同じ進路だった。天理大の2つ後輩には先日のW杯でブレークした川真田絋也(滋賀レイクス)もいる。

 ただ彼はポテンシャル、能力ほどには目立たないキャリアを送ってきた。会見後のコメントもそうだが、どちらかというと「控え目」なマインドがあったようだ。彼が頭角を表しつつあった昨シーズンのある試合後に、大野HCはこんな話をしていた。

「経験の多くないメンバーがいるので、トライ&エラーをする前に自分で評価してしまっている部分がある。コートに出てパフォーマンスをして何かを感じる前に『自分はこういう選手』という固定概念みたいなのが本当に強かった。例えば佐々木隆成だったら(自分を)ロールプレーヤーだと思っていて、ボールを離したがっていたんです。なので最後にお前がボールを持つ、お前が打つんだと(伝えた)。富樫勇樹のメンタリティじゃないですけど、自分がゲームを決める責任を持てるくらいになれるという話はしています。今はいいパフォーマンスをしていますけど、もう少しやれるかなと考えています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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