報徳学園・今朝丸が忘れられないマウンド 夏の苦い記憶から殻を破れるか

沢井史

今秋の背番号「10」に隠れた、指揮官の決断

今朝丸は新チームで背番号10を背負ってマウンドに立つ 【写真:沢井史】

 夏の県大会5回戦。報徳学園と実力は県内で双璧とされている神戸国際大付と激突した。

 1-1の同点で迎えた4回。1死一塁からマウンドを受け継いだ今朝丸だったが、3番の久保勇吹に適時打を許して勝ち越された。さらに7回には二死二塁のピンチで6番の井関駿翔に投じたフォークを捉えられ、レフトへ運ばれた。二塁走者が生還し、結局この3点目が決勝点。チームも敗れ、春夏連続の甲子園出場は途絶えた。

「自分があの場面でもっとしっかり投げ切っていればって、今でも思っているんです」

 試合後は涙が止まらず、先輩の夏を終わらせてしまったことを悔やみ続けた。

 そして、新チームでの今朝丸の背番号は「10」だ。エース番号は昨秋から共に公式戦のマウンドを踏み、切磋琢磨してきた間木歩がつけ、主将も務める。

 間木は今夏の県大会3試合で登板し、短いイニングとはいえ無失点。センバツでもハートのこもったピッチングで、今朝丸より多い17イニングを投げた。2人が任せられるのは中継ぎ、リリーフとほぼ同じ。前チームでは今朝丸が10番、間木は11番だったが、新チームでの間木は主将としてもチームの中心的役割を担うようになった。

 ポテンシャルから見ても、今朝丸が1番をつけてもおかしくなかったが、大角監督の決断の裏にはこんな事実があった。

「センバツが終わってから、どうも緊張感のない試合があったんです。大舞台を経験して自信にしてくれるのはいいけれど、過信しているような姿を何度か見ていて……。先頭打者から簡単に置きに行って打たれることもありました。俺がやったる、とかそういう気持ち的な部分があまり見えてこなかったのもあったんです」

 前チームはエースの盛田も含め、継投で勝ち上がることがほとんどだった。昨今は、1人のエースが投げ切るより継投することが投手の負担軽減にもつながりプラスになることは多い。だが、それが故の“弊害”を大角監督は口にする。

「分業制で投げると、逆に言うと“どうせ自分はどこかで投げられるし”みたいな甘い考えになっているようにも見えました。前のチームだったら、盛田が投げない時は“盛田さんにいい形でつなぐんだ”みたいな謙虚なところもありましたけれど、今はそんな感じでもなくて。ダブルエースとして投げてくれたらそれに越したことはないですけれど、僕は“エースは1人でええんやぞ”と言っています」

 この秋は間木、今朝丸が県大会で交互にマウンドに立っている。県大会、2回戦の松陽戦。先発のマウンドに立った今朝丸は5回を投げ1安打無失点。この日はキレのあるスライダーを武器に7個の三振を奪った。

「今日はローボールもうまく使って抑えることができました。(8月に行われた)地区大会ではフォームが安定していなくて調子が上がらなかったのですが、最近ようやく良くなってきました」

 体重は夏から3キロアップし、現在は74キロ。下半身周りが少し太くなったようにも見えるが、まだ体の線は細い。それでもストレートの威力は徐々に上がっており、現在の自己最速は144キロまで伸びた。

 そして、今週末の準々決勝でいよいよ夏の再戦・神戸国際大付との試合が控える。神戸国際大付はこの夏も主戦級でマウンドに立った同じ学年の最速148キロ右腕・津嘉山憲志郎がエース番号を背負い、再び立ちはだかる。ここで夏に超えられなかった壁を突破しなければ次には進めない。

「俺がやったるんや、という気持ちをもっと見せて欲しい」という指揮官の言葉に背番号10は奮起するのか。この秋、ひとつ目のヤマとなる決戦で、殻を破る右腕の姿に期待したい。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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