角田裕毅の今季ドライビングを検証 進化を鈴鹿で魅せるか

柴田久仁夫

退任する代表の期待に応える

入賞したベルギーGPでもAT04のリヤの挙動はまだまだ不安定だった。オーバーランしやすいターン5でライバルの前に出ることができたのは、角田の卓越したコントロール技術あってこそだ。 【Red Bull Content Pool】

 もちろん低迷した時期もあった。第5戦マイアミからの7戦はモナコを除いて予選で一度もQ3に進出できず、レースでもノーポイントが続いた。夏休み明けのオランダから前戦シンガポールまでの3戦も、入賞から遠ざかっている。角田に話を聞くと「週末3日間の流れが、うまくいかないことが多かった」と、語っている。初日のフリー走行で予想したほどロングランのペースが伸びず、セットアップ作業に手間取るうちに2日目の予選に突入。後方グリッドからの決勝レースで、順位を上げられないままチェッカーというパターンが多かったのだ。

 さらに直近2戦では、モンツァはPUトラブルで1周も走れず、開幕以来13戦続けてきた完走記録が途絶えた。さらにシンガポールはスタート直後の接触事故で、リタイアを喫した。しかしそれ以前に、角田は両グランプリの予選でミスを犯している。

 0.013秒という僅差でQ3進出を逃したモンツァは、角田自身も言うように「細かいミスをいくつか犯した」ためで、それでも十分に10番手に進める速さがマシンにあったのに、それを活かせなかったことを、角田は非常に悔しがっていた。

 そしてシンガポールではQ1で最速タイムを叩き出しながら、Q2はセクター3で大きくタイムロス。15番手に終わった。最初のアタックはフェルスタッペンに妨害され、ピットに戻ったところで車検に引っかかり、一発勝負のアタックを余儀なくされた。

 さらに言うならば、けがで欠場したダニエル・リカルドの代役でF1デビューしたリアム・ローソンが、予想以上に好パフォーマンスを発揮している。それらの要素が、果たして角田裕毅の心理状態にどれほど影響したのか。シーズン前半には決して見られないミスだった。

 とはいえ、角田へのチーム首脳陣、とくにフランツ・トスト代表からの高い評価は変わらない。とてつもなく複雑な現在のF1で本来の実力を発揮するには、少なくとも3年が必要だと言うのがトスト代表の持論だ。角田はその3年目に、確かな成熟を見せている。それでもトスト代表は「もう1年が必要だ。今シーズンを経て、ツノダは本当に素晴らしいレベルに到達する」と言明している。

 チームはシンガポールで、大幅な空力アップデートを投入した。その真価が発揮されるはずの今週末の鈴鹿こそ、角田の今季の成長を確認できる週末になることだろう。

セバスチャン・ベッテルやマックス・フェルスタッペンもトスト体制の元、経験を積んできた。今季限りで代表を退く予定のトスト氏の期待に角田はどう答えるのか。 【Red Bull Content Pool】

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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