J2首位・町田は3試合勝ちナシで試合運びに変化あり 黒田監督と選手は「苦しみ」にどう向き合っているのか?

大島和人

尾を引くエリキの負傷

第31節に負傷したエリキの不在は町田にとって痛い 【(C)J.LEAGUE】

 9月に入って勝利から遠ざかっている町田だが、3試合の失点は「1」と悪くない。足踏みの理由は攻撃面になるだろう。

 サッカーを見ていれば「上位チームが押し込んで取り切れない試合」はよく見る。今季の町田に関して言うと、そういう流れはあまりなかった。カウンター主体のスタイルで、さらに「先制して相手に持たせる」展開が多かったからだ。

 さらにいうと8月までの町田は決定機を他チームより高い確率で決めていた。ブラジル人FWエリキのクオリティーがそれを支えていた。

 エリキは30試合に出場して、18得点6アシストを記録している。出場した試合ではチームが挙げた得点のざっと半分に絡んでいるのだから、その存在は大きかった。彼は8月19日の清水エスパルス戦で左膝の重傷を負い、チームから離脱している。そこは町田の攻撃が迫力を失っている単純にして最大の理由だ。

 エリキが今シーズン中に復帰することはないし、彼の不在を嘆いても苦境からは脱出できない。新戦力アデミウソンの獲得は終盤戦の期待値を上げる部分だが、コンディションの調整にはもう少し時間がかかる。となれば当面は今季の町田はここまで積み上げてきたベースを生かしつつ、持ち得る戦力で、やれることをやるしかない。

出せている強みと、次への打ち手

鈴木準弥は途中加入ながら右SBに定着している 【(C)J.LEAGUE】

 藤枝戦をもう少し掘り下げると、試合の中で「手」は打たれていた。例えば57分から起用されたバイロン・バスケスは右サイドからの突破で惜しい場面を作り出していた。切り札の多さを生かして、「前半と後半で違う強みを出せる」ところは町田の特徴だ。

 鈴木は振り返る。

「バイロンが入ったことで右に引き付けて1人2人かわしたり、中とのコンビネーション、ワンツーから崩したりする場面を作れた。(平河)悠が出たら縦に速く、バイロンが来たら少し張ってそこから仕掛けるという、お互いに良さがあって、両方を出せていた。そこを使い分けられるのはうちのチーム強みです」

 チームとして解消するべき課題も当然ある。奥山は試合後にこう口にしていた。

「ロングボールからセカンドボールを拾えればいいですけど、拾われると逆に一気に行かれるところがあった。2次攻撃、3次攻撃につなげるためにもう少し全体の押し上げが必要です。僕たち(DF)がラインをしっかり押し上げて、チーム全体として重心を高く保てるような戦いをしたい。あとはチームとしてボールの失い方まで、もう少し意識を持ってやれればいい」

 クオリティーは一朝一夕に解決する問題ではないが「相手に危険なカウンターを出させない」「いい形で奪って、より確率の高いカウンターを増やす」ために打てる手はある。

「苦しみ」の伴う終盤戦

キャプテン奥山政幸は残り8試合への覚悟を口にしていた 【(C)J.LEAGUE】

 町田は残り8試合をどう戦うべきなのか?鈴木はこう口にする。

「自分たちがやることを徹底するのみです。試合ごとの判断は必要ですけど、何か新しいことをやるよりは、自分たちがここまで積み上げたモノを、より強固にするしかない。みんなが同じ方向を向いて戦うのが、町田の強さであり良さだと思います」

 優勝に向けたプレッシャー、重苦しさはあるはずだ。ただロッカールームでは、ベテランの太田宏介が「苦しみを味わえる」ことの価値を説いていたという。

 鈴木は振り返る。

「宏介さんが言ってくれたんですけど、こういう状況でサッカーできていることは幸せです。なかなか勝てず、もがいている状況ではあるけれど、あくまでも優勝を目指せる位置で苦しみを味わえている。そこはある意味で楽しみながら、チームの良さを出していきたい」

 追う者と追われる者を比較すれば、おそらく「追われる者」のほうが苦しい。一方で「追われる苦しみ」を味わえるのは、幸せなことでもある。どうせ苦しむなら、状況を前向きに捉えたほうがいい。

 優勝争い、プレーオフ争い、残留争いとそれぞれの立ち位置はあるが、リーグ戦の終盤はどのチームにとっても等しく苦しいモノだ。ストーリーの結末はまだ分からない。しかし町田は追われる苦しみを受け止めながら、必死さを漂わせながら、残り8試合に向かっていくのだろう。シーズンの山場は色んな感情を抑えず、エネルギーに変えて『ガムシャラ』に戦ったほうが結果も生まれやすい時期でもある。

 キャプテン奥山は述べる。

「勝ち点3は同じでも、終盤戦はその重要度が増してきます。ジュビロやエスパルスが後ろから迫ってきている状況で、残り8試合はしびれる展開になってくるはずです。どこのチームも本当に命がけでやっている中で、僕らもそれ以上に身を挺して、人生をかけてやらなければいけないと思います」

2/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント