荒木絵里香が語るバレー女子五輪予選の展望 五輪切符の鍵は「相手が嫌がるプレー」

田中夕子

ミドルブロッカーの活躍が日本をさらなる高みに押し上げる

ミドルブロッカーとしてはまだ経験の浅い宮部藍梨だが、高い献身性は注目ポイントの1つだ 【Photo by Rene Nijhuis/Orange Pictures/BSR Agency/Getty Images】

 他にもまだまだアピールしたい選手はたくさんいるのですが、やはり元ミドルブロッカーとしては、同じポジションの選手を推したいですし、何より頑張ってほしいです!

 東京五輪にも出場した山田二千華選手は、高さと経験があるので「ミドルの中心として頑張らなければ」という気持ちで取り組んでいます。ミドルブロッカーとしてはまだ経験の浅い宮部藍梨選手も「自分はまだまだ」と言いながらも献身的なプレーで、向上心があります。ブロックを最後まで諦めず、フォローも一生懸命入っている姿は、ぜひ皆さんにも見てほしいポイントです。

 同様に、入澤まい選手も高さという武器があるだけでなく、練習を重ねて自信がついてきましたし、サーブ力もあります。渡邊彩選手も攻撃力があるミドルブロッカーなので、持ち味はそれぞれ異なり、全員が一丸となって“ミドルミーティング”も積極的に行いながら頑張っています。

 今は各セットでミドルブロッカーが4得点を挙げることを目標にしていますが、ミドルが点を取って目立てば目立つほど、周りの選手が楽になります。ミドルブロッカーだからこそできる、チームをプラスに動かせるプレーがたくさんあるのです。チームの中心、起点となって自信を持って戦ってほしいですね。

五輪出場権を争うライバルはトルコ、ブラジル

世界ランキング1位で、現欧州王者でもあるトルコは、間違いなく日本の最大のライバルとなる 【Photo by Dursun Aydemir/Anadolu Agency via Getty Images】

 9日間で7試合のハードスケジュールをこなすOQTは、対戦国も強豪ばかりです。特に山場は後半の3連戦で対戦するトルコ、ブラジルでしょう。

 今年のネーションズリーグ、ヨーロッパ選手権も制したトルコは、このグループだけでなく現時点で世界の中でも1つ抜けている印象すらある強豪です。特にメリッサ・バルガス選手、エブラル・カラクルト選手という大砲が2人もいます。これほど攻撃力に長けた選手がぶつかることなく共存しているのには驚きです。

 ミドルブロッカー、リベロが安定したプレーでチームのディフェンス力をコントロールしているだけでなく、チーム全員が互いの長所を生かし合ってプレーしているので、見ていてワクワクする魅力的なチームに仕上がっています。

 そして、もう1チームはブラジル。言うまでもなく世界の強豪であり、五輪がかかった戦い、そして五輪本番のブラジルの強さはもはや説明不要ではないかと思えるほど、圧倒的な力を発揮するチームです。

 単純に考えて上位2位以内に入るためには、このどちらかには勝つ必要があります。トルコ、ブラジル戦まで全勝が理想の展開ですが、ベルギー、ブルガリアの欧州勢はサーブがよく、高さもあるのでブロック力もあるので侮れません。ペルーやアルゼンチンも海外でプレーする選手が増え、個々のレベルも組織力も向上しています。プエルトリコもアメリカの大学でプレーする選手が多いので、非常にレベルの高いバレーボールを展開するようになりました。つまり、どのチームも強いですし、要注意です。

勝つためには、いかに相手をイライラさせるかが重要

 強豪ひしめくグループを勝ち抜くには、日本はどんなバレーボールをすべきでしょうか。強化してきたサーブで攻めることはもちろんですが、攻撃時も相手のブロックやディフェンスシステムの穴を突くような、相手からすればイライラするようなプレーがいかにできるかが鍵になります。ホームアドバンテージも十分生かして、相手にプレッシャーをかける戦い方を終始貫いてほしいですね。

 選手にとってOQTはプレッシャーがかかる舞台ではありますが、バレーボールの魅力が存分に詰まった非常にエキサイティングな大会でもあります。独特の緊張感とここでしか味わえない高揚感。世界トップレベルのバレーボールが展開されるので、見る方々には大いに楽しんでほしいですし、きっと1人1人の心を動かすプレーが見られるはずです。

 日本代表の選手たちもそうしたプレッシャーをマイナスに捉えるのではなく、積み上げてきたものを信じて出し切ってほしいと思います。ネーションズリーグで銅メダルを獲得した男子日本代表、ワールドカップで五輪出場権を手にしたバスケットボール日本代表の活躍を追い風に、みんなで一緒に盛り上がりたいし、私もOG、アントラージュとして一緒に戦います!

(企画構成:C-NAPS編集部)

荒木絵里香(あらきえりか)

【本人提供】

1984年8月3日生まれ。岡山県出身の元バレーボール選手。186cmの長身を生かしてミドルブロッカーとして活躍。成徳学園(現・下北沢成徳)時代には高校3冠を達成した。全日本では2008年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ、20年東京(コロナ禍の影響で21年開催)と4大会連続で五輪に出場。ロンドン五輪では主将として銅メダルを獲得した。2014年第一子出産後、競技復帰を果たし、東京五輪で選手生活を引退。現在はトヨタ車体クインシーズチームコーディネーター、バレーボールの普及活動や強化、JOC理事、アスリート委員、講演など様々なフィールドで活躍の場を広げている。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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