W杯に臨む“日本代表の顔”はNBAベテラン 渡邊雄太が自覚するリーダーとしての期待
NBAでも5年を過ごし、リスペクトされる選手に
たくましさを増した渡邊(右)はデュラント(左)のようなNBAのスーパースターにも認められるようになった 【USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
今夏、日本代表の一員として臨むワールドカップに向けての抱負を問われた渡邊雄太の言葉には貫禄すら感じられた。
ドラフト外での入団ながら、NBAでもすでにベテランと呼び得る28歳という年齢になった。最高峰のリーグで5年を過ごし、日本バスケットボールの歴史に刻まれるキャリアを築いてきた。
NBAではスターと呼べるようなレベルではないとしても、他国の選手たちからもリスペクトされる存在になったのだろう。特に今大会では八村塁が欠場しているだけに、スーパースター軍団のフェニックス ・サンズと2年契約を結んだばかりの渡邊こそが“日本代表の顔”である。
「ブルックリンでの時間は自分にとって、キャリアを左右した1年だったと思っています。無保証の契約しかもらえず、行くか行かないかで迷っていたところから始まって、活躍してすべてがうまく回りだした。コーチたちやチームメイトからの信頼を得て、評価が上がりました」
サンズとの契約後、渡邊本人がそう述べていた通り、ブルックリン・ネッツで過ごした昨季の活躍はキャリアを変えたといってもいいのだろう。
当初は無保証のキャンプ契約ながら、特に前半戦はハッスルプレーと精度抜群の3ポイントシュート(3P)を武器に大躍進。ケビン・デュラント、カイリー・アービングといったスーパースターたちからも信頼を集め、一時は3P成功率でNBAのトップに立った。チーム事情からデュラントらが移籍したシーズン後半はプレー機会が激減したが、渡邊が世界最高のバスケットボールリーグで意味のある爪痕を残した事実に変わりはない。
その上昇のプロセスは劇的で、感動的で、NBAの関係者からも認められるのに十分だった。今オフ、デュラント、デビン・ブッカー、ブラッドリー・ビールらを擁して来季の優勝を狙うサンズに請われる形で入団したことは、その価値が認められた何よりの証拠である。メンフィス・グリズリーズ、トロント・ラプターズ 、ネッツ、そしてサンズと移籍するたびに階段を上がり続ける渡邊は、アメリカンドリームの体現者だといっても大袈裟ではない。
日本バスケットボール界への想い
大学、プロへと進む過程でも、渡邊が日本代表でプレーすることの誇りを忘れたことはなかった 【YUTAKA/アフロスポーツ】
「日本開催でやれるというのは、生涯一度の経験だと思っています。オリンピックも東京で開催されましたが、残念ながら無観客という状況でした。今回はたくさんのお客さんにも見てもらえる。すごく楽しみにしています」
元日本リーグ選手だった父、日本代表メンバーでもあった母に育てられたこともあってか、渡邊はかねてから日の丸を背負ってのプレーへの思いが強かった。ジョージ・ワシントン大時代から日本バスケの未来にまで目を向けた言葉を頻繁に残し、NBA入り後は「日本のことを常に考える余裕があるわけではない」と述べながらも、日本代表に対する気持ちが途切れたことはなかった。
「僕も自分のことをやるだけで精一杯なので、自分がNBAにいるから日本のバスケットが盛り上がっているとか、そういうことは普段一切考えてないです。ただ、自分がネッツで活躍したり、(八村)塁がレイカーズの一員としてプレーオフでもすごい活躍したり、そういう結果を日本のファンの方や、小さい子供たちが見て、こういうふうになりたいって思ってもらえれば、自分たちがやっていることに意味が出てきます。日本のためにやっているとか、貢献しているとか、そんな大袈裟なことを言うつもりもないですけど、自分がやっている結果として、そこに繋がってくるのであれば嬉しいですよね」