連載:大谷翔平が席巻するMLB後半戦の行方

「井口資仁×五十嵐亮太」対談で徹底解説! 大谷翔平とMLB日本人ルーキーのいま

丹羽政善

打者・大谷を解説する井口氏の技術論は必見

タイトル獲得へ、大谷がどこまで本塁打数を伸ばせるか、井口氏、五十嵐氏の2人から同じキーワードが飛び出した 【写真:Getty Images】

 第2回は、打者・大谷について。

 昨年とはどう違うのか。ステップ、構え。相手にとって、真っすぐ高めは一つの配球の軸だったが、大谷はその真っすぐ高めを5月30日のホワイトソックス戦で本塁打。マウンドには後にチームメートとなるルーカス・ジオリトがいたが、以来、本塁打の量産が始まった。

 当時、どんな変化が見られたのか。井口さんが技術論を解説する。

 例えば、過去2年は1本も本塁打がなく(図1)、メジャー移籍後を見ても、2020年に1本しかホームランを記録していない外角高めだが、今年はすでに4本塁打を記録している(図2)。

図1:2021、22年に本塁打を打ったコース 【参照:baseballsavant.mlb.com】

図2:今年、本塁打を打ったコース(8/9まで) 【参照:baseballsavant.mlb.com】

 その外角高めは昨年、他のコースと比較した場合、平均打球初速も低く、バレル率(※)も低かったが(図3)、今年はむしろ突出して高い(図4)。技術的にどこが変わったのか。構え、体の使い方に関する井口さんの解説は、腑に落ちるものばかりだった。

※バレルとは、打者の評価において重要な指標で、打球初速と打球角度の組み合わせ。バレルに必要な打球初速は最低98マイル(157.7キロ)で、その場合の打球角度が26度から30度であれば、バレルゾーンに入ったと規定する。打球初速が1マイル上がることに打球角度は広がり、99マイルの場合、打球角度は25度から31度、100マイルなら24度から33度でバレルゾーンに入る。昨年、バレルの打球の打率は.772、長打率は2.591。大谷の場合、今年(8月9日まで)のバレルの打率は.869。

図3:スイングに対するバレルの割合 2022年 【参照:baseballsavant.mlb.com】

図4:スイングに対するバレルの割合 2023年(8月9日現在) 【参照:baseballsavant.mlb.com】

 ストライクゾーンに死角のなくなったいまの大谷に対し、投手はどう攻めるのか。五十嵐さんは、「(抑えるには)駆け引きしかない」と話した。では、どんな駆け引きが考えられるのか? それをたどると、いまのメジャーの投手たちが、どう大谷を攻めているのか見えてくる。

 なお、外角高めを打てるようになったのは、バットを1インチ(2.54cm)長くしたことと関連があるのでは、との見方もあるが、打者としてバットの長さを変えることは、どんな影響があるのか。

 そこは今回の対談の核心でもあったが、井口さんは「0.5ミリ長くするだけでも、感覚が違う」と驚きを口にした。バットを1インチも長くすると、「ヘッドの重みや、ヘッドバランスが変わってくるので、バットコントロールが難しくなる」そうで、そこから派生する影響は動画を見て欲しいが、こちらが促す前に、五十嵐さんが、「えっ、それどういうことですか?」と聞くぐらい、やりとりは熱を帯びた。
 そして、今後どこまで本塁打を伸ばせるかは、2人とも「我慢」という言葉をキーワードに挙げている。

 プレーオフ出場を争っているようなチームはもう、まともに大谷とは勝負してこない。歩かせてもいい、というぐらいの気持ちでボール臭い球を投げてくる。その球をきっちり見逃し、相手がミスした球を、捉えられるかどうか。それはまさに今後の見どころとも言えそうだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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