最強ペアとの距離縮める渡辺/東野 バドミントン世界選手権で初の金メダルなるか

平野貴也

遠藤コーチが1年前に断言「中国は別格じゃない」

 準決勝で対戦した中国ペアとの対戦成績は、5勝13敗。そのうち3勝が、21年東京五輪後の数字だ(3勝5敗)。以前は、大きな力量差があった。まだシードを獲得できていなかった頃は、とにかく逆のヤマに入ることを願うしかなかった。力がついてきた後も、19年8月に世界選手権の準決勝で完敗。攻略の糸口をどう探っていたか聞かれた渡辺が、憤りを抑えながら「逆にどう思います? 強すぎでしょ」と粘ることさえ許されなかった悔しさを表現したこともあった。昨年も「勢力図は1強」と形容し、中国ペアの実力を認めた。昨夏に東京で行われた世界選手権も準決勝で完敗。まだ格が違うのかと思わされた。

 しかし、次の週に大阪で行われたジャパンオープンで雪辱。相手は照準を合わせていた大舞台で優勝した直後。ベスト4まで勝ち上がれば決して悪い成績ではなく、大きなダメージのない敗戦だった。それでも、ベンチに入っていた遠藤大由コーチ(BIPROGY)は「すごいですね、しっかり勝ったのは。良い自信になったのでは。みんな(中国ペアは)別格じゃないと分かったでしょう。勇大たちは、やり方次第、その日のコンディション次第(で勝てる可能性がある)。別格というのは、相手が油断しても何をやっても勝てないもの。僕は、それを味わってきた」と勝てた事実に大きな価値を見出していた。

世界選手権が8月21日開幕、初の金メダルなるか

世界選手権でも初優勝の期待がかかる 【撮影:平野貴也】

 1年が経ち、今年のジャパンオープンでは、決して好調ではないと思われる状況でも、勝つことができた。しかも、そこで終わることなく、頂点に立った。決勝戦では、本来の形で躍動。東野が前衛で左右に鋭く動き、素早いタッチで先手を奪取。渡辺が後衛から強弱をつけたオーバーハンドで相手を攻略した。世界ランク1位、3位を破っての優勝に、東野は「まだまだ、あの2ペアの方が実力は上かなと思う。でも日本の大会で自分たちが勝ち取れたのは、大きな価値だし、大きな一歩」と謙遜しながらも喜びを噛み締めた。

 1982年に始まり第40回大会を迎えたジャパンオープンで、日本勢が混合ダブルスを優勝したのは、初めて。表彰式後、優勝選手記者会見に臨んだ渡辺は「今は、結構、興奮していて。歴史を作るぞという気持ちでコートに入った。劣勢の場面もたくさんあったけど、最後まで諦めずにプレーした結果」と手応えを語った。

 互角と言うのは、まだ少し早いかもしれないが、24年パリ五輪の金メダルに最も近い中国ペアに対し、距離を縮められていると感じる大会になったはずだ。ジャパンオープンの後に予定していたオーストラリアオープンは、出場を回避。次戦は、8月21日にコペンハーゲンで開幕する世界選手権となる。混合ダブルスで優勝すれば、日本勢初となる。

 引き続き、コンディションは気になるところではあるが、ジャパンオープンと同様、状況に応じた戦術選択で頂点を目指す。渡辺は、会見で今後の抱負について「まだ五輪レースが続いていますし、どんな大会でも優勝を目指していく。どこかにターゲットを絞って勝てるような実力は、まだないと思っているので、毎試合が勝負。一番は、バドミントンを楽しめたらと思う」と話した。

 中国ペアに挑み続け、工夫し続けることで力をつけてきた。東京五輪当時は、ともに24歳で若手だったが、渡辺が26歳、1学年上の東野が27歳となり、選手としての成熟期を迎えている。24年パリ五輪の金メダル獲得へ、少しずつ可能性を広げている2人。世界選手権でも歴史を作れるか、楽しみだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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