仲間との絆と気持ちが生んだ劇的ゴール 和泉竜司と“国立”の、忘れがたい思い出

今井雄一朗

12年前から変わらぬアイデンティティ。いつでも見るのは目の前の未来

5月14日の鹿島戦は古巣対戦でもあったが、途中出場も試合をひっくり返すことはできなかった。 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 すでに12年前の出来事で、和泉も30歳になろうとしている。だが、その記憶は活き活きとしていて実に色鮮やかだ。県大会で優勝し、朝岡隆蔵監督を胴上げしようとすると、「全国優勝で」と言われたその約束も果たせたと穏やかな表情を浮かべる。しかし「過去は気にしないタイプなので」とむやみに浸ることもなく、その目は常に前を、未来を見る。優勝直後の冷静さは、彼のアイデンティティとしてその生き方に直結する。

 彼にとっての「今」はといえば、4年ぶりに“帰還”を果たした名古屋グランパスでのキャリアだ。ちょうど目の間にはサマーブレイク明けの初戦、国立競技場をホームとして行う新潟戦を控えている。「正直、前の国立とは違うので、懐かしさは正直あんまり感じないです」と語る和泉だが、5月の悪夢のような敗戦を踏まえ、自分も主力の一員としてただひとつの勝利を目指して備えを誓う。

「僕たちはどんどん積み上げていって、前回対戦の自分たちとは違うと思います。前田直輝だったり、中島大嘉だったり、新戦力がその試合から出場できるようになるので、そういう部分でも違うぞってところを見せたいです。それは相手も一緒だと思いますけど、移籍やチーム状況を見れば相手の方が苦しい部分がある。そこをしっかり突いていけるようにしっかり相手を研究して、その上で自分たちがいつもやっていることをもっと高める。この国立でのホームゲームで、よりハイクオリティのグランパスを見せられればなと思います」

 こんな話をした後だけに、期待してしまうのは終了間際の和泉である。もしリードされて、あるいは同点のままで後半アディショナルタイムに突入したら、そこはあの国立のピッチである。

「狙っておきますね。今はセットプレーのキッカーだけど、蹴ったらゴール前に行こうかな」

 第90回大会のヒーローはいたずらっぽく笑った。チームを背負う気持ちはあの時と変わらず、あれからの経験や選択のひとつとして後悔はないと語る。それでもやはり、和泉の心にあの2得点は深く刻まれている。「最初で最後かもわからないですね」という特大のガッツポーズとともに。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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