仙台育英、「2回目の初優勝」を目指す夏 日本一を逃す悔しさを知った春の経験を糧に

大利実

目標はもちろん日本一。それでも須江監督は「昨年と今年はまったく別のもの」と語り、チーム内で「連覇」という言葉が飛び交うことはない 【写真は共同】

 7月14日、宮城県大会2回戦から仙台育英のこの夏の戦いが始まる。昨夏には東北勢として初の甲子園優勝を果たし、今夏は2年連続日本一がかかるが、須江航監督は選手たちの前で「連覇」という言葉を口にしたことがないという。チームが目標に掲げるのは、「2回目の初優勝」。4人のエース級を抱える最強投手陣を中心に、昨夏の全国王者が偉業に挑む。

“デキの良い兄”と比較されても困る

 2022年夏の甲子園で、東北勢初の日本一に輝いた仙台育英。あの歓喜から、間もなく1年――。

 今年もまた、『日本一からの招待』に挑む夏がやってきた。

 「連覇」への期待が集まるが、須江航監督は「昨年と今年はまったく別のもの」と冷静に分析している。

「この1年間、選手たちの前で、『夏の連覇を目指そう』と言ったことは一度もありません。人がひとりでも入れ替われば、チームは変わるものです。それに、『連覇』となると、どうしても前のチームと比べることが増えてしまいます。それは、指導者にとっても選手にとってもストレスにしかなりません。“デキの良いお兄ちゃん”と比較されても、困りますよね」

 「今年は今年」として、『2回目の初優勝』を目標に掲げてきた。

今までのベスト8敗退とはまったく違う

今春のセンバツで敗れたあと、多くの選手が涙を流していた。須江監督(左)が「優勝以外は悔しいものと感じてくれている」と言うように、昨夏の全国制覇が選手たちの意識を変えた 【写真は共同】

 チームを作るうえで、須江監督自身が「新しい挑戦」と語るのが、キャプテンに山田脩也を指名したことだった。

「周りにモノを言える、“キャプテンシー”を持った選手はほかにいました。それでも、『2回目の初優勝』を果たすには、山田の成長が必要不可欠。想定した未来を超えていくためにも、キャプテンとしての山田の成長に期待をかけました」

 何も、はじめからうまくいったわけではない。昨秋の県大会決勝で東北に敗れたあとには、山田が「本当に自分がキャプテンでいいのか」と須江監督に悩みを打ち明けたこともあった。今はそんなことがあったのが信じられないぐらい、立派なリーダーに成長している。

「去年の9月と11月の写真や映像を見比べると、顔つきが明らかに変わっています。強い意思を持った表情をしている。発言の一つひとつも変わってきて、『立場が人をつくる』ということを実感します」(須江監督)

 山田自身は、「昨秋の県大会で東北高校さんに敗れたことが、一番のターニングポイント」と振り返る。

「とにかく悔しい結果で、自分たちを成長させてくれる1試合だったかなと思います」

 この1敗で、夏の日本一は過去のものとして割り切ることもできた。自分たちは決して強くはない。東北大会に臨むまでの2週間、守備と走塁に徹底的に力を入れ、「あとは試合でパフォーマンスを発揮するだけ」の状態に持っていくことができた。

 山形開催の東北大会に出発する日には、控え投手の菅野圭汰が『あとはやるだけ!』と書いたホワイトボードをベンチ入りメンバーに見せ、センバツ出場を託した。そして、4試合すべて3点差以内の接戦を制し、東北大会優勝。センバツの切符を手中に収めた。

 菅野が考えた言葉は、須江監督によって2023年のスローガンとなり、『Just do it ~あとはやるだけ~』として、グラウンドのライト側フェンスに掲げられている。

 夏春連覇がかかったセンバツでは、準々決勝で報徳学園にタイブレークで敗れたが、大きな収穫があった。

「敗れたあとに、悔し涙を流していた選手が多くいたことです。昨年、日本一になったからこそ、『優勝以外は悔しいもの』と感じてくれています。今までのベスト8敗退とはまったく違うものだったと思います」(須江監督)

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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