連載:高校野球2023夏の地方大会「エリア別大展望」

名将・門馬敬治監督、岡山の地で新たな挑戦 「創志学園に行きたい」と思われるチームを目指して

沢井史

試合だけ、練習だけで終わるのは違う

2011年のセンバツで初めて甲子園に登場した創志学園は、これまでに春、夏3度ずつその舞台を踏んだ。昨夏も県決勝で伝統校の倉敷商を破り、4年ぶりに出場 【写真は共同】

――岡山で指導されてもうすぐ1年が経ちますが、岡山の高校野球にはどんな印象を持たれていますか?

 まだ全部を知っているわけではないですけれど、伝統校の作り上げた野球と、その伝統校のOBの熱がすごいですね。私学ももちろんですが、倉敷商や倉敷工、岡山東商などの(公立高校の)目に見えない伝統と脈々と受け継がれてきたものが、歴史を作っていると感じます。

――神奈川県にはない感じですか?

 神奈川県にも公立高校で素晴らしいチームはありますが、ここまでたくさんの公立高校の伝統校はないかもしれません。中四国って、そういう公立高校の伝統校が多いでしょう? 広島だったら広島商とか、香川だったら高松商とか。こういう学校って夏になると、力をすごく発揮すると聞くんですよ。僕はまだ夏の大会を経験していないので、これからはそういう学校にも打ち勝っていかないといけないと思いますね。

――昨秋の県大会で、初めて指揮を執られました。県で準優勝して、中国大会では準々決勝まで勝ち進みましたが、初采配の昨秋を振り返ると?

 まず初戦(県大会・東部地区予選)ですよね。初回に7点を取ったのに直後に9点を取られたんですよ。最終的に5回コールドで勝てましたが、今までにない経験でした。終わってみれば良い経験にはなりましたが、もっと選手をちゃんと見極めていかなくてはいけないと感じました。相手がどうというより、自分たちに何が足りなかったのか。そのあたりは大会後に選手に話しました。なぜあの場面で点が取れなかったとか、失点したとか、相手どうこうよりもベクトルを自分に向けられるか。

 この間もミーティングで話したんですが、普段の生活から野球に繋げられるようにしないと。例えば嫌いな食べ物を食べられるようになるのは、野球でも苦手なことにチャレンジできるきっかけになる。これを食べれば、野球のこういう時のエネルギーに繋がるとかね。試合だけ、練習だけで終わってしまうのは違うと思うんです。

「まだまだ」という部分が9割

選手たちはまだ「できることができていない」と語る。自らの理念を浸透させ、継続して全国で戦えるチームにするには時間が必要だと考えているようだ 【沢井史】

――夏を前に、近畿圏を中心に西日本の強豪校と積極的に練習試合を組まれていました。

 この間は馬淵(史郎)さんのところ(明徳義塾)とやりましたし、中井(哲之)さんのところ(広陵)とも試合をしました。近畿圏を中心に、しのぎを削っている学校、甲子園を知る監督さんに触れたいというのがあって、結構関西遠征には行きましたね。履正社には今年、2回も行ったんですよ(苦笑)。本当は愛知県にも行きたいんですけれど、往復の(移動)時間がかかるので、まだ行けていないんです。

 本気で日本一を狙うチームを、映像で見るより実際に肌で知ることで、これだけ力の差があるのか、というのを選手にはまず感じてほしいです。そして、感じるだけではなくて、じゃあ自分たちはどういうことをしなきゃいけないとか、感じたことを生かしてもらいたいです。強豪校と接戦をして「自分たちもやれるんじゃないの」っていう勘違いはしないでほしい。自分の間違いに気づいていたら治せるけれど、勘違いしていたら間違いに気づかないから治らない。まずはその“勘違い”からいろんなことに気づいていくところからでしょうね。気づきが増えていけば、一進一退しながらでも、変わっていけると思います。

――お話を聞く限りでは、まだまだやることが多いという感じでしょうか。

 まだまだ、が9割ですね(苦笑)。できることができていないし、(指導理念が)じわじわと浸透している実感がまだないんです。結果にばかり目が行っている。今の段階では練習からの徹底がないのですが、これができるようになればじわじわ感は出てきます。そこからは浸透するのが早いと見ています。

 スタッフ陣もよくチームを見てくれていますし、自分が不在の時にはコーチがその日の練習であったことを細かく報告してくれます。本当にありがたいですね。そこで気づいたことを選手に話せば、選手も「指導陣は見てくれているんだ」って思いますし。コーチ陣には本当に感謝していますし、コーチの力がないとチームは勝てません。

 最近は「大阪桐蔭に行きたい」という中学生が多いですよね。よく大阪桐蔭は選手を集めているとか言いますが、集めているのではなく、あれだけ選手が集まるのは西谷(浩一監督)のブランディングの凄さなんです。あれだけのチームだから、行きたいという子が増える。実際、行きたいと努力してきた子が集まって、チームでさらに高い競争ができている。そこで生き残った子らがあのユニホームを着て、甲子園に出られる。創志学園も「あのユニホームを着たい」って思われるようになればいいですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

門馬敬治(もんま・けいじ)

1969年12月18日生まれ、神奈川県出身。東海大卒業後にそのまま大学に残り、コーチと部長を歴任した後、母校の東海大相模のコーチに。99年に同校の監督に就任した。東海大相模を率いた22年間で、甲子園出場は春夏合わせて12回。そのうち4大会でチームを日本一に導いた(春3回、夏1回)。2021年9月に東海大相模の監督を辞し、翌22年の夏の大会の後から創志学園の監督を務める。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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