連載:高校野球2023夏の地方大会「エリア別大展望」

名将・門馬敬治監督、岡山の地で新たな挑戦 「創志学園に行きたい」と思われるチームを目指して

沢井史

快く取材に応じてくれた門馬監督。高校球界を代表する名将が、創志学園の監督を引き受ける決め手となったのは? 【沢井史】

 東海大相模を春夏通算4度の甲子園優勝に導いた門馬敬治監督は、新たに昨年8月から岡山の創志学園で指導にあたっている。昨夏の甲子園にも出場した新興校の指揮官として迎える初めての夏。次なる挑戦の舞台になぜ創志学園を選んだのか。1年近く指導してきて、チームにどれだけ手応えを感じているか。そして、岡山の地でどんな未来を見据えているのか。夏の県大会を前に話を聞いた。

西日本の高校野球の知識はゼロだった

――2021年9月に長年率いた東海大相模の監督を退任されました。数多くの強豪校からオファーがあったかと思いますが、創志学園で監督をする決心をされた一番の理由は何でしょうか?

 大橋博理事長(現・総長)の言葉です。いろんなお話を伺った後に、「お守りします」と言っていただいて。相模の時も、3年連続で県の決勝で負けて勝てない時期に、原(貢)さん(当時・東海大総監督)が後ろ盾になってくださった。当時は厳しい言葉もたくさん掛けられましたが、一緒にいてくれるのではなく、後ろで支えてくださっている。これほど大きな力になったことはないです。大橋総長からも、そういう感じの言葉をいただいたので、「ヨシ」と(決心しました)。

 実際はグラウンドがどんな感じなのか、選手のレベルはどうなのか、分からないことだらけでしたけれどね。中学生が高校を決める時、高校のことなんて公式戦で勝ったとか負けたとか、目に見えることしか分からないじゃないですか。そんな感じでした。全部をすぐに知るのは難しいけれど、その言葉に何かをビビッと感じたので、これはもうやるしかないなと。

――それまではずっと関東圏の野球界で過ごされていました。甲子園で中四国の高校と対戦歴があるとはいえ、西日本の高校野球は未知数なことばかりだったのではないですか?

 甲子園で試合をしたことがあるといっても、2時間だけですからね(笑)。西日本の高校野球の知識はゼロですよ。特に岡山のことは何も知らなかったです。過去に広島や北九州に選手を獲りに行ったことはあったのですが、岡山には(駅にも)降りたことがなかったんです。初めて来た時に、駅の正面にある桃太郎の像を見て「岡山に来たんだな」と。

やっぱり地元岡山の選手は大事

それまで訪れたこともなかったという岡山の地での新たなチャレンジ。創志学園の監督として初めての夏に臨む 【沢井史】

――チームと対面して、まずどんなことから始めていかれたのですか?

 最初の段階で何ができるか、何を変えようかというより、何を知ろうとすればいいか、でした。でも、向こうも僕のことを知りたいから、最初はお互いに探りを入れようとするんです。そんななかでも僕は飾らないようにしました。ええかっこしいで喋るのはよそうと思ったんです。

 実は最初の3日間は僕は何もしないから、今まで通り練習してほしいってコーチに頼んだんです。外からまず練習を見させてもらって、3日経ったら自分が感じたことを生かしていきたいと。でも、初日の1時間くらいで「ごめん」って言って、自分が思ったことを直接選手らに話してしまいました。「あっ、そうなんだ」というだけじゃなく、「何言ってんの?」って思われたかもしれませんが、いろんな感情があっていいと思うんです。最初からピタッとハマることなんて反対になかなかないでしょう? それくらい、飾らずにいきたかった。

 大人と子供って、立場が全然違いますが、人を見る目は変わらないと思うんです。大人のごまかしを子供は見破れると思いますが、大人の本気も子供には伝わるはず。だから、練習を重ねていくうちに子供に何かを感じてほしいし、僕はあえてどうこうは喋らないつもりでいます。厳しい指摘もしますが、良いプレーがあれば本人に直接言って褒めることもありますよ。

――中学生はこれまでの人脈に頼らず、西日本の選手を中心に直接見に行かれていると伺いました。

 岡山を中心に、西日本圏内の中学生を見に行っています。細かく言うと、中四国、九州、近畿の西部などですかね。

 岡山の学校が過去に全国で勝っていた時は、ほぼ岡山の選手のみだったそうです。でも、最近は岡山の選手が県外に出て行ってしまっている。岡山に魅力あるチームがあれば、中学生の流れが変わっていくのではと思います。やっぱり地元の選手は大事。一番は「創志学園に行きたい」と思わせるチームになっていけたらと。「ここに行きたい」と思って入ってきてくれた子は、能力云々ではなく気持ちが全然違うんです。行きたいと思って入った高校ですから、スタートから最後の粘りまで違います。

――反対に、縁が深い神奈川県内の中学生の指導者から「門馬監督のいる創志学園に行きたいという子がいる」と言われることはないですか?

 実際にそういった声はいただいています。でもね、神奈川にいい学校はたくさんあるし、夏の大会は球場にお客さんがたくさんいる中で試合ができる。そんな神奈川に魅力がないのなら来てもいいけれど、僕は神奈川でやった方がいいって言うんですよ。もちろん、いろんな事情があって県外に出る子はいますけれど、あの雰囲気の中でやれる環境は全国でも他にはないと思うんです。

1/2ページ

著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント