“あのエラー”で知った野球の怖さ 失意のセンバツから報徳学園・岩本は再び立ち上がる

沢井史

岩本は1年秋からレギュラーで、俊足で何度もチームの窮地を救ってきた。幼い頃から走る競技は負けたことがなかったという 【写真は共同】

 今秋のドラフト候補で正捕手の堀柊那とともに、前チームから報徳学園のレギュラーとしてチームを引っ張ってきた岩本聖冬生。彼の最大の武器は、50mを5秒8で駆ける俊足だ。

 1年秋から背番号7をつけ、出塁すれば足で相手をかき回す。昨秋の公式戦では3割を超える打率を残し、盗塁も8個(12試合)決めている。

 ただ、準優勝した今春のセンバツに触れると「あまり良い思い出がないです」と苦笑いを浮かべる。伊丹ヤングに所属した中学時代は、タイガースカップで優勝を経験しており「甲子園には良い思い出しかなかった」というが、この春は目の前に広がる景色が少し違っていた。

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兄の絶妙な視点が成長を促す

 自宅は報徳学園から自転車で10分ほどのところにあり、中学時代の経歴も胸に「自分なら絶対に早い段階で試合に出られる」と妙な自信があった。4歳上の兄・悠佑真さん(立教大4年)も報徳学園出身で、報徳の話も兄からよく聞いていた。迷いなく名門校の門を叩き、1年秋からはレギュラーに。自信があったとはいえ、当初は「正直、本当になれるとは思っていなくて、出来すぎだと思いました」と本人は言う。

 武器の俊足を生かし、上級生の中でも存在感を示してきた。ただ、下級生時の自分は未熟だった部分も多かったと振り返る。

「1年生の時から足は負ける気はしなかったんですけれど、2年生の春くらいまでは“ただ速い”だけでした。お兄ちゃんに“三塁の回り方がヘタ”とか、はっきり指摘してもらって、このままではいけないと思いました」

 高校ではレギュラーではなかった兄。だからこそ、外から見る自分への視点が絶妙だった。

 このセンバツでも、試合が終われば指摘やアドバイスをしてくれた。

「技術的にどうこうというより、打席に立った時の表情とか……。自分の悪い部分をちゃんと見てくれて、もっと視野を広く、とか、心構えとか。そういう問題についていろんなことを言ってくれました」

 初戦(2回戦)の健大高崎戦は無安打。3回戦の東邦戦では2安打を放ったが、周りが見えていなかったと振り返る。

「ピッチャーばかりを見ていたし、“俺が俺が”って、気持ちだけが前に出ていました」

 試合が終わるたびに兄からの助言ももらったが、大舞台に立つとどうしても気持ちが前のめりになってしまう。

 実は今年に入って、バッティングフォームを少し変えたことも思うような当たりが出ない一因だった。

「秋は打てていたけれど、この春はバットが振れなくなってしまって」

 納得のいく1本がなかなか打てないまま、迎えた準々決勝の仙台育英戦。

「今でも時々言われることがあります」と話す、“あの場面”だ。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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