「夏は自分が最後を締めて…」センバツでサヨナラ打を浴びた仙台育英左腕がたどる成長の軌跡
考えての失敗が次につながる
強烈な同級生に揉まれるなか、田中は「試合を作る」ことに活路を見出す 【写真は共同】
「ストライク率は68%以上を数値目標にしました。須江先生の言ういいピッチャーのラインが65%。コントロールして打たせるピッチャーになるのなら、それよりも少し上に、と思ったので。実戦が始まってからはストライクがどんどん取れて、大体、68%から高くて74%くらいはいっています。変化球でもいつでもストライクが取れるようになり、3人との違いも出せたかなと思います」
昨夏の甲子園で東北勢初の優勝を成し遂げ、その際のメンバーだった高橋、湯田、仁田は公式戦での経験値が高く、注目度もある。複雑な思いはあったが、それを原動力に道を模索し、チームに欠かせない存在になった。
「2年夏まではキャッチャーに従って、ただ投げているだけのピッチャーでした。バッターの反応を見たり、カウントを気にしたりするようになってからは配球も変わり、考えることも増え、『これでしょ』というのも湧いてくるようになってから結果も出てきていると思います。失敗も、考えての失敗なので、次につながる。最近は何を練習していても楽しい。スピードを出すことだけを考えて練習していた時より、自分を理解するようになってからはやることも決まり、自分のスタイルにつながらない練習がなくなったので、楽しさが練習にも出てきています」
スピードを求めることも悪ではないし、その取り組みだって、田中のレベルを上げたに違いない。だが、そこへのこだわりを一度捨て、背番号を背負って投げるために必要なことと向き合った。そしてまた、ひのき舞台での経験が田中を創る。
「自分が打たれたから負けた」と胸に刻んで
「いつもだったらしないのですが、三振を取るような配球もしてみました。後半はやりたいことはやったのですが、結果は違ったよな、というのもあって。それは決めていたゴールへの道のりを間違えたという感じです。でも、それも自分の中では分かっているので、次につながるなと思っています」
高校生は、選手は、こうして伸びてゆく。
センバツを終え、報徳学園戦を振り返った須江監督は「あんな難しい場面で投げられるのはもう田中しかいなかったので」と言った。そして、「負けた後のコメントがよかったですね」とうなずいた。
――最後に終わらせてしまったので、夏は自分が最後を締めて優勝できるように帰ってきたい――
「あの時は自分の思いだけでああいう言葉選びになったんですけど、最後、優勝して終われればいいので」と、田中は照れた。
「ああいう場面で打たれて負ける経験をするピッチャーは少ないと思うので、自分にしかない経験として、『自分が打たれたから負けた』ということを頭に入れながら練習していきたいと思います。次は抑えたいですし、もし、自分が投げていなかったとしてもベンチから声をかけてチームに還元できると思うので、経験をいいものにしていきたいと思います」
仙台育英の投手力はますます強固になる。