不器用でビビりな“本当の村田諒太”を受け入れる 心技体で要らないものを削ぎ落として得た落ち着き
村田のスタイルは「愚直」なボクシング 【Photo by Kiyoshi Ota/Getty Images】
「強さとは何か」を追い求めてきたボクサー村田諒太の『世紀の一戦』までの半年間を綴ったドキュメンタリー。
コロナ禍で 7 度の中止・延期という紆余曲折を経て、最強王者ゴロフキンとの対戦に至るまでの心の葛藤、スポーツ心理学者の田中ウルヴェ京さんと半年間にわたって続けてきたメンタルトレーニングの記録、虚栄や装飾のないありのままの村田諒太を綴った一冊から一部を抜粋して公開します。
折れない自分をつくる闘う心
京さんから「自分の感情に常に気づき続けてください、試合当日まで気づいて対処、気づいて対処の繰り返し。フィジカルトレーニングと同じです」と言われていた。1人でいるときにセルフトークが増える中で気づいたのが「裸の自分」だった。
鎧を着るどころか、真っ裸にされて試合に向かう感覚――。減量で絞り込まれていく肉体と同じように、僕のメンタルも色々なものがそぎ落とされているように感じた。メンタルトレーニングを通して屈強な自分になれるのかと期待していたら、むしろ正反対の自分で今この瞬間にいることに、ただただ苦笑するばかりだった。
京さんから自信の暗示をかけてもらえればどれだけ楽だろう。うわべだけのポジティブシンキングじゃない、リアルシンキングをやりたいと京さんにトレーニングをお願いしておきながら、どこかでおまじないのようなものを期待していた。でも、セッションを重ねてきた中でそんなものはないということが分かった。自分で苦しんで悩んで、答えを見つけていくしかないのだ。
ビビりで、怖がりで、世間の目を気にする村田諒太で行ってこいと、ぽんと檻に放り込まれるような気分だった。京さんは「ありのままの自分だと思えているなら大成功です」と満足そうだった。このトレーニングを始めたばかりの頃に聞いた心理学のモデル「ジョハリの窓」に照らせば、「自分の知らない自分」に気づき、「自分の知っている自分」に少し塗り替わったようである。いっそ知らないままでよかったけど、と思わず笑ってしまう。
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