書籍連載:本多雄一「選ばれる人になるための習慣」

SB本多雄一が若手にかける思い 一軍で"ミス"、涙の三森へ伝えたいこと

本多雄一

若い可能性

コーチとしてソフトバンク若手育成を支えている 【写真は共同】

 コーチが選手に教わる形になることもあります。そんなエピソードも紹介しましょう。

 ひとりは周東佑京。足がとても速く、国内プロ野球選手の中でも、最速の一角であることは間違いありません。

 育成契約での入団でしたが、はじめて一軍に上がって来た最初の2019年は代走で盗塁を積み重ねました。あまりの速さだったため、暮れの国際大会で、足の切り札として日本代表にも選ばれたほどです。
 しかも、本来は外野手なのですが、いろんなポジションを守れます。ベンチワークをするうえで、こんなに頼もしい選手はいません。

 ただ、守備も打撃も微妙にミスが出ます。

「なぜだろう?」

 そう思って、彼のプレーを眺め、いくつかのミスを見て気がつきます。どうやら、彼はスピードがありすぎるのです。しかも、性格的にもガムシャラで一生懸命。それが、プレーを不安定にしてしまう気がしました。

 たとえば、守備で緩いゴロを捕るとき、トップスピードでボールを捕ろうとしてもボールに衝突してしまう形になります。

 飛行機が着陸するのをイメージしてもらうとわかりやすいのですが、少しずつ減速し、そこで地面に接触するから安定した着陸になるのです。

 打球処理というのは、ボールに向かうときは大きな力で向かいます。近くに至ると捕るために力を抜く、ボールを捕る瞬間は力を発揮するよりも一番抜くとき。そして、次の送球に向けて力を加えていきます。

 わずかな時間の中でも筋肉の使い方や身のこなしに強弱をつけていくイメージ。

 でも、ガムシャラで一生懸命な選手は、終始、強のままになってしまう。捕る瞬間も目線が動くので、グラブのいいところに入りません。周東の場合も近いイメージでした。彼は一生懸命に力を出す。それ
はいいこと。

 でも、ずっと、彼のスピードでやるのは至難の業です。逆説的に力を抜くことでうまくいくこともある。

 そんなアドバイスをしてみようと思いました。

 ただし、アドバイスというのは相手が納得していなければ意味がありません。

 否定から入れば、人は耳を傾けないものです。

 野球ではガムシャラだけど、周東は人間的には明るく、よくしゃべる若者。表情も豊かで、そのときの気分や状態がわかりやすい。

 そこを気にして伝えてみます。もちろん、押し付けることはしません。こんな視点もあるよ、という選択肢を提示する感じです。

 すると、前向きな表情にもなります。

 守備だけでなく、打撃も同じです。野球のプレーには力の強弱が必要です。リラックスしたところから、緩やかに力を大きくする感覚です。

 彼は練習で取り組み、一軍の経験を積むことで、だんだんと安定するようになります。

 それが自信にもなって、さらに自分で成長を遂げた選手なのです。

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著者プロフィール

福岡ソフトバンクホークス⼆軍内野守備⾛塁コーチ。福岡県大野城市出身。鹿児島実業-三菱重工名古屋。 2005年より福岡ソフトバンクの黄金時代を支えたリードオフマン。 多くのファンに惜しまれながら2018年に現役を引退し、2019年より一軍内野守備走塁コーチ、現在は⼆軍内野守備⾛塁コーチを務める。 2012年より嬉野観光大使としても活躍している。 現役時代の主なタイトル ・盗塁王2回 ・ベストナイン1回 ・ゴールデングラブ賞2回

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