書籍連載:本多雄一「選ばれる人になるための習慣」

SB本多雄一が若手にかける思い 一軍で"ミス"、涙の三森へ伝えたいこと

本多雄一

選手から学んだこと

 伸びてきた選手という意味では、三森大貴はそこに当てはまるでしょう。

 2016年、ドラフト4位の高卒で入団し、二軍で鍛錬を繰り返してきた選手。二軍と一軍を行き来するようになったのが、ちょうど3年目の2019年でした。

 大きな声を出し、黙々と練習します。

 ずっと見ていると表情もわかるようになります。

「お、何かを得ようとしているな」目の色がハッキリ変わるのです。

 そんな三森が一軍の試合でセカンドを守ることになりました。二軍でも準備を重ねてきた選手なので、やってくれるだろうと僕は思っていました。でも、やはりプロの一軍は甘くなかった。

 普通のセカンドゴロが内野安打になってしまいます。

 プロの内野安打というのは、通常は三遊間の深い打球で生まれるもの。そうでなければ、センターに抜けるはずだった打球をセカンドがなんとか捕ったが、間に合わなかった、というパターン。

 彼はその方向でない打球を処理しました。普通は間に合う。でも、ボールに向かっていけず、待って捕ったので間に合わない。

 試合後、僕は彼と話し合った。彼は自分ができなかったことは自覚していました。だから、悔しさのあまり涙を流していたのです。

「二軍と一軍の試合、どう感じた?」

「緊張して……」

 4万人という大観衆が彼の動きを固くする。野球選手の多くが通る道です。

 彼は失敗をしっかりと心に入れるタイプで極端に自分を追い込んでしまっていました。

「うまくなろうと思うこと」

 課題を克服しなければ、ずっと二軍と一軍を行き来する選手になってしまいます。やるしかない。そう伝えました。

 それからは練習ばかりになります。メンタルからのアプローチも必要です。でも、メンタルの土台になるのは自信。そして、野球の守備は繰り返し身体でおぼえるしかないし、それが近道だと思いました。

 繰り返し、繰り返しノックをします。何度も何度も三森は捕る。

 僕が昔、森脇浩司さんに3時間ノックを受けたのと似ていました。苦難を乗り越えるのは簡単ではなく、時に嫌な表情になるときもある。しかし、その先に自信が芽生え、自分を追い込んでも負けない強さが生まれます。

 彼の逆境に立ち向かう姿勢には目をみはるものがありました。

「オオォッ!」

 言葉にならない雄叫びをあげました。そして、またボールに向かおうとする。

 三森は自分に負けませんでした。

「ようやった!」

 最後には自然とそんな言葉をかけていました。

「あのときの涙を一生忘れるな。そうして試合で活躍して、お父さん、お母さんを喜ばしてやるんだ」

 やり遂げようとする選手に、僕はそんなことを言います。

 ああしろ、こうしろと言っても、本人がやろうとしなければ意味がありません。でも、両親やお世話になった人のことを思えば、本人の中の何かが動く。

 僕の方でもいい勉強になりました。それは、緊張、失敗、乗り越える力、いろんな意味で、そうだったと思うのです。

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著者プロフィール

福岡ソフトバンクホークス⼆軍内野守備⾛塁コーチ。福岡県大野城市出身。鹿児島実業-三菱重工名古屋。 2005年より福岡ソフトバンクの黄金時代を支えたリードオフマン。 多くのファンに惜しまれながら2018年に現役を引退し、2019年より一軍内野守備走塁コーチ、現在は⼆軍内野守備⾛塁コーチを務める。 2012年より嬉野観光大使としても活躍している。 現役時代の主なタイトル ・盗塁王2回 ・ベストナイン1回 ・ゴールデングラブ賞2回

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