連載:大阪桐蔭“最強世代” 青地斗舞・独占インタビュー「野球人生に区切りをつけた理由」

大阪桐蔭・最強世代、青地斗舞が現役引退 野球人生と変わらず「1番を目指して」新たな世界へ

沢井史

本気でプロに行きたいと思っていた

社会人野球でプレーを続ける道もあったが、情熱を注げる新しい目標を見つけ、野球人生にピリオドを打った 【YOJI-GEN】

 3年秋のリーグ戦前。青地は高校時代以来、坊主頭にした。心身ともに再スタートを切る覚悟がその理由だったが、実はこの頃からある気持ちに揺れ動いていた。

「野球がもし大学で駄目なら、就職活動を始めなきゃと思っていたんです。野球をちゃんとやれるのも最後になるかもしれないと思って、真剣に将来のことを考えていました」

 高校時代の同級生は4人、プロの世界へ進んだ。その後、大学野球の第一線で早くから試合に出ていた中川卓也(早稲田大)、宮崎仁斗や山田健太(ともに立教大)ら、仲間の情報ももちろん見聞きしていた。2年生まではそういった遠くにいるライバルに負けたくない一心で野球に打ち込んだが、3年生になってからは自分に向き合うことが大事だと思うようになり、どんな情報が耳に入ってきても、自分のモチベーションとして受け止めるようになった。

「野球をやるからには1番を目指したかったんです。本気でプロに行きたいと思って、ずっとやってきました。でも……」

 きっかけは2年生の時の新型コロナウイルス感染拡大の世の中の姿だった。

「コロナ禍の間にテレビの映像で海外の様子を目にした時に、コロナへの対応が日本とは驚くくらいスピードが違っていたんです。病院を建てる早さとか、マスク着用の緩和とか……。日本にはないスピード感が伝わったのと、英語を話せたら世界の65パーセントくらいの人と話せるらしいので、日本語でしか得られないことより英語でたくさん得られることがあるのなら海外に出てみたいなと。卒業後は野球を辞めて海外で働きたいと、3年秋のシーズン後に監督に相談しました」

 野球に打ち込みながら英語の勉強にも懸命に取り組んだ。参考書を自身で購入し、独学で猛勉強に励んだ。

「最初は(自身の英語力は)中1レベルだったので、まずは単語と文法をやり直しながらリスニングなど、ゼロから勉強しました」

 もちろん、野球をすんなり諦めたわけではなく、社会人野球への思いはあった。だが、4年春頃に大手の総合商社から内定をもらい、「先に決まったのならこれも縁かなと思って」(青地)、と、以降は社会人野球からのオファーには断りの連絡をし、未知の世界へ進むことを決意した。

「野球をやっていく以上、プロへ行けるか行けないか、というのが僕の野球を続けていく理由でした。でも自分の技量では限界があると感じましたし、野球は好きですけれど、それ以上に心が躍る目標ができたので、そちらに飛び込もうと思いました」

今の目標はTOEICで730点取ること

西谷監督に野球を辞めると伝えたのは、就職が決まってからだという。大阪桐蔭での3年間を通じて多くを学んだ、尊敬する恩師だ 【共同通信社】

 西谷監督にはずっと気にかけてもらっていたが、内定をもらってから報告した。

「ビックリされていました。青地はそっちの道でも頑張っていけると言っていただきました。大阪桐蔭野球部から総合商社に進むのは僕が初めてらしいです」

 春には上京し、研修期間を経て、いよいよ新たな世界へ旅立つ。今は大きな目標を胸に、英語の勉強と格闘する日々を送る。

「ここから先は踏み入れたことがない世界なので自分次第。分からないことのほうが多いですが、今の目標は来年の今頃までにTOEICで730点は取りたいですね。もちろん、会社でも認めてもらえるような存在になって、早く海外で勤務できるように頑張っていきたいです。野球は終わってしまいますけれど、これからはいちファンとして見ていきたいですね」

 新たな夢へ向かい胸が膨らむ一方、好きな野球から離れるのは心のどこかに寂しさはあるだろう。幼い頃から野球は日常だった。「仕事をしながら草野球チームに入らないのか?」と尋ねると、いつものあの笑顔でこう返した。

「入らないですよ。入ったら、また1番を求めてしまうので」

 そして最後にこうも言った。

「高校、大学の時が良かったね、とは言われないように。これから高校、大学の時以上の経験をしていきたいです」

 学生時代に得た両手に抱えきれないほどの経験は、新たな世界で1番になるための後押しになる。そう信じて、青地は再び“てっぺん”を目指す。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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