連載:元WBC戦士は語る―侍ジャパン優勝への提言―

岩隈久志は「侍投手陣は世界レベル」と断言 悲願の優勝へ不可欠なのは選手たちの順応力

小西亮(Full-Count)

球数制限や強行日程…違いの多い環境

代表入りが決まったソフトバンク・甲斐拓也を中心に、バッテリー間でのコミュニケーションが優勝へのカギを握ると岩隈氏は話す 【写真は共同】

 捕手とのコミュニケーションは、球数制限の面でも欠かせない。岩隈氏が参加した第2回大会は、第1ラウンドが70球、第2ラウンドが85球、準決勝と決勝は100球と定められた。前回の第4回大会はそれぞれ5球ずつ減。先発投手は試合を作ると同時に、省エネで1アウトでも多く奪う役目も担う。

「無駄球をなくして、どんどん攻めていこうという意識は、早い段階でミーティングを重ねてやっていました。とにかくストライク先行で行くことが一番の作戦でした」

 打ち気に勝る打者ならあえてボール球から入ることもあったが、早いカウントからの勝負を徹底。普段なら合間に挟む遊び球もなくした。よく動いてくれるWBC球も追い風となり、バットの芯を外す。準決勝進出をかけた第2ラウンドのキューバ戦では、奪った18アウトのうち実に15個がゴロだった。「球数制限というルールはルールなので。自分のできることをしっかりやるだけで、やりづらさはなかったですね」と思い返す。

 ルール面だけでなく、環境面の変化を強いられるのもWBCならでは。決勝を含めた最終局面は、米国が舞台。今大会は、特に厳しいスケジュールとなっている。東京で開催される1次ラウンドと準々決勝ラウンドを順当に勝ち上がれば、3月16日の夜にベスト4入りが決定。そこからわずか4日後の日本時間3月20日の朝(現地19日夜)に準決勝を迎える可能性がある。

 移動の時間や時差も含め、かなりの強行軍。「めちゃくちゃ大変だと思います。時差が一番体にとってはきついので、中3日くらいで戦うのはかなり厳しい」。準々決勝までに5試合消化している段階で、疲れも出るころ。「時差に慣れる時間も含めて、普通だったら調整に5日間くらいは欲しいとは思います」と岩隈氏は語る。

強豪ぞろいも「日本の投手力は世界レベル」

“世界レベル”の侍投手陣が米国などの超強力打線といかに対峙するか。見どころは多い 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 あらゆる違いを受け入れ、向かい合うのは異国の打者たち。それぞれ特徴も違う。岩隈氏は、侍ジャパンにとって“宿敵”となる韓国と2度も対戦。「アジアのバッターは日本に近い部分もあったので、日本のバッターと対戦するイメージで投げました」。決勝では7回2/3を投げ、4安打6奪三振で2失点。2連覇へとつながる大役を果たした。

 一方で、同じく2試合で対峙したキューバ打線は「パワーが全然違うのは感じました」。試合の流れを変えかねない長打に警戒しつつも「めちゃくちゃ早打ちだったので、それを上手く利用して投げることができた」とも。ボールゾーンも巧みに使いながら、うまく手玉に取っていった。

 今大会には、各国代表にメジャーリーガーが続々とメンバー入り。特に米国代表は、スーパースターたちが名を連ねた。マイク・トラウト外野手(エンゼルス)やムーキー・ベッツ外野手(ドジャース)ら過去のMVP受賞者がズラリと並ぶ超強力打線を形成。2017年の第4回大会に続く連覇への本気度がうかがえる。

 米国で7年間プレーした岩隈氏も、メジャーリーガーの迫力を身をもって体感してきたひとり。今回の顔ぶれを見て「確かに打線はすごいと思う」と目を見張る。ただ、打線は水物。「どんなにいいバッターでも、常にホームランばかり打っているわけじゃない」。特に短期決戦では投手力が試合を左右することが多く、それを自らマウンドで体現してきた自負があるからこそ言う。

「ピッチャーが投げて始まるのが野球。ゲームを作れば、どんな打線が相手でもチャンスは巡ってくると思う。それに、日本の投手力は世界レベル。まずは、先発が試合を作ること。あとは、みんなでカバーしていく。どうしても先発が試合を崩すと厳しいものがありますからね」

 押しつぶされそうな緊張の中でマウンドに立った身として、岩隈氏は軽々しく「頑張れ」とは言わない。「自分のパフォーマンスをしっかり出せる準備をするのが一番。それ以上のものはなかなか出てこない。準備をしっかりしてほしい」と助言する。早くも“史上最強”とうたわれる侍ジャパンへ「プレッシャーはすごくあると思いますが、自信を持って戦ってもらいたい。世界一の奪還に期待したいし、できると思う」。14年前に見た世界一の景色を、後輩に見てほしいと切に願っている。


企画構成:スリーライト

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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