198センチの二刀流FWが2ゴール 日大藤沢・森重陽介の持つ「スペシャルな可能性」

大島和人

日本サッカー界待望の大型FW登場なるか?

長身とボールを受ける動きを併せ持つ森重(左から3人目)は、日本待望の大型FWとしての期待がかかる 【写真は共同】

 なお清水では加入前に2度の練習参加をして「最初はCBで、2回目はFW」のテストを受けた末に、FW登録になるという。

 先日のカタールW杯では前田大然、浅野拓磨、堂安律といった170センチ前後のアタッカーが大活躍を見せた。しかし今の日本代表には、世界を相手に前線でボールを落ち着かせられるタイプがいない。大型で、なおかつ技術がある選手は増えているが、ゴールを決めるより「決めさせない」役割に落ち着いてしまう選手が多い。

 相手を背負ってボールを持てる、動かせる選手が出てこない限り「W杯でポゼションサッカーをする」ことは難しい。

 しかし大型選手は結果を出すまでに時間がかかり、指導者は我慢が求められる。森重も早くから“先が見えていた”選手ではなかった。彼は東京ヴェルディジュニアユースの出身。中3の夏からCBでプレーしていたが、SBやボランチもやった経験があるという。ユースへの昇格が叶わなかった彼は「パスサッカーが好き」という理由で日大藤沢への進学を決めた。

 佐藤監督はこのような期待を口にする。

「できればああいうタイプのセンターフォワードが、日本から出て来てほしい。僕らもそういう選手を預かっているので、何とかフォワードで、大きいけれど動ける選手になってもらいたい。我慢して身体作りをずっと3年間してきて、その成果が出ている。それを生かしてもらいたいと思います」

大型FWを育てるための「我慢」

 日大藤沢は“身体作り”に時間をかけて取り組んでいるチームだ。

「すごく細かくウチはやります。軸の使い方、へその使い方、肩甲骨の使い方と、全体をオーガナイズできるようにやってきました」(佐藤監督)

 指揮官は我慢をして、森重の成長を見守ってきた。

「間違いは間違いですけど『ミスは全く気にするな』と3年間の中で、特に1、2年のときに言い続けていました。選手はチャレンジしないと良くなりません。ミスを怖がる選手にはなってほしくないので、背中を押していたつもりです」

 今後の課題、伸びしろについてはこう口にする。

「駆け引きの部分を覚えてもらいたいです。高校生だから、待っていれば叩けるシーンが多いですけど……。自分から剥がしに行ける、オフ・ザ・ボールの動きができる198センチなら、本当に怖い選手になりますね」

 恵まれたアスリート性を持っていても、ボールをゲームスピードで正確にコントロールできなければ、そして正しいタイミングで正しいポジションを取れなければ、サッカーという競技では上を目指せない。そのさらに前段階として「思い通りに身体を動かす」という基本中の基本がある。

 森重がJクラブの主力になる、日本代表のピッチに立つといった成功を収めるまでには、まだ地道な努力の継続が必要だ。ただ日大藤沢高校、佐藤輝勝監督は“スペシャル”な選手を育てようという野心を持ち、答えを急がずに地道なプロセスに取り組んだ。そしてまず選手権出場、1回戦突破という収穫も手にした。森重には成功してほしいが、成功すると決まったわけではない。

 ただはっきり言い切れることもある――。こういう才能、こういう指導者がさらに出てくれば、未来の日本サッカーはもっと面白いものになるだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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