“Bリーグ最小”の選手が最下位・新潟を救う!? 27歳の冨岡大地が初B1で起こしていること

大島和人

冨岡大地は攻撃の起点として新潟に貢献している 【©B.LEAGUE】

大敗の中でも際立ったプレー

 西地区の首位争いをしているホームの広島ドラゴンフライズが、中地区の最下位に沈む新潟アルビレックスBBを圧倒する――。そんなドラマ性がない試合を、自分は記者席から眺めていた。

 新潟はロスコ・アレンの負傷もあり、2勝14敗でこのカードを迎えていた。前日の1試合目を63-96で落とし、11日の再戦も68-108で敗れている。ただそんな一方的な展開の中で、気づくと自分は新潟のポイントガード(PG)に目を奪われていた。

 「こんな小さい選手、B1にいたっけ?」が、第一印象だった。167センチの富樫勇樹(千葉ジェッツ)はBリーグ最高のスター選手だし、166センチの兒玉貴通(香川ファイブアローズ)もB2最高レベルのPGだ。新潟の背番号5はその二人よりさらに小柄で、しかも今まで見た記憶のない選手だった。

 その名は冨岡大地。165センチはBリーグ最小で、 B1でプレーするのは27歳で迎える今シーズンが初めてだ。過去の所属チームを確認していて、5年前の出来事を思い出した。彼は2017-18シーズンにB2の愛媛オレンジバイキングスに所属していた。筆者はある会社の選手名鑑で愛媛を担当していたが、どれだけ調べても冨岡の情報がなくて困ったことを覚えている。要はとびきりの“無名選手”だった。

チーム消滅、浪人も経験

 冨岡の経歴はとにかく異色だ。プロのキャリアは2015-16シーズンの「広島ライトニング」からスタートしている。広島ライトニングは広島ドラゴンフライズとは全く違うチームで、bjリーグに参戦していた。しかし同シーズンの戦績は1勝51敗。経営的にも不安定で、2016年秋のBリーグ発足を前に活動を休止している。

 プロチームではあったが、関東への遠征に選手自らがワンボックスカーを運転して向かったこともあるという。広島経済大3年生の彼は、そんな環境でプレーしていた。そして2016-17シーズンの冨岡は所属チームなしの浪人生活に突入する。

「個人を見るスキルコーチみたいな人がいたので、そこでバスケをしたり、自分で練習する感じです」

 2017-18シーズンは愛媛に拾われたものの、プレータイムをほとんど得られず、契約は1シーズンで終了している。その後4シーズンは東京サンレーヴス、金沢武士団とB3でプレーしていた。

 そんなPGにB1新潟からオファーが来る。ただし「通訳兼アマチュア選手」という変則的な契約だった。冨岡は今までも英語力を生かして外国籍選手、コーチの通訳をしてきた。そんな立場を彼はこう述べる。

「バスケするために、使えるものは何でも使おうという考えです。(アマチュア契約だけど)別にユニフォームは着られますし、ロスターにも入れる。あとは練習をして、自分が証明するだけだと思っています」

「大地を入れるといいことが起こる」

今季の途中から新潟の指揮を執るコナー・ヘンリー・アドバイザリーコーチ 【©B.LEAGUE】

 広島戦に至るまでの12試合で、彼がコートに立ったのはわずか5試合。出場は最長が5分56秒だった。新潟には澁田怜音、綿貫瞬といったPGがいて、冨岡の立ち位置は「ローテーションにほとんど絡めない三番手」だった。しかし11日にその故郷・広島で開催された一戦は、その地位が変わるきっかけになりそうだ。

 冨岡は高速ドライブでチームを活性化させ、ビッグマンを生かすパスを送り、自らもシュートを決めていた。日本人選手、外国人選手を問わずよく声をかけ、プレーが止まれば仲間を呼んでハドルを組む。大差がついた中でもエネルギーを発散し、楽しそうにプレーしていた。気づくと15分58秒の出場で7得点を記録し、自身のキャリアハイを達成していた。

 新潟のコナー・ヘンリー・アドバイザリーコーチはこう口にしていた。

「(冨岡)大地を入れると、いつもいいことが起こる。チームは今ポイントガードが不足していて、オフェンスを停滞させず、ボールをスムーズに動かせる選手も少ない。彼にはスピードを生かして組み立てたる、ピック&ロールからディフェンスの動きを見極めてパスを振る能力がある。今日の試合で長時間プレーしたことはハッピーだし、この先の何試合かはコートに立つ時間が伸びると思う」

強豪・渋谷撃破にも貢献

 冨岡は11日の広島戦後に、こう振り返っていた。

「僕が入るときはボール運びで苦しい、オフェンスが停滞しているといった、リズムの悪いとき。ドリブルをしっかり突いてボールを運んで、パスを供給していきました、オープンだったらシュートを打って、アグレッシブにプレーしようと思って出ました」

 自らが発揮していたリーダーシップについてはこう説明する。

「30点差で負けていようが、接戦だろうが、別にやることは変わりません。(自分は)英語で喋れますし、外国人選手とも、もちろん日本人選手ともコミュニケーション取れる。そこは強みだと思っています」

 続く14日のホーム戦で、新潟は中地区の首位争いを繰り広げているサンロッカーズ渋谷を92-78で下した。冨岡は24分51秒と完全に主力のプレータイムを勝ち取り、5得点6アシストを記録している。ターンオーバーはわずか1つで手堅さも示し、リードした展開の“クローズ”を任されていた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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