長崎ヴェルカの23歳・弓波英人は選手兼コーチを経て指導者業へ 目指すはアメリカでHCに、そして恩人を「ボコボコに」

永塚和志

指導者として掲げる2つの目標

近い将来はアメリカへ、そして恩師との対決が目標と語る弓波氏(中央) 【永塚和志】

 長崎に来てまだ2年目でしかないものの、近い将来、段階でアメリカに戻ってコーチをやっていくという選択肢もあるという。ジョージアサザン大等からコーチ陣に加わる話もあるそうだが、そういったものがあるうちに行かずにぐずぐずしていると、声がかからなくなってしまう可能性があるからだ。

「本当、間違いないんですよ、それ。話があるうちに行かないと、忘れられてしまうので。だから早く行きたいっていうのはありますね」

 アメリカのコーチの世界もコネクションが大事ですものねと筆者が水を向けると、弓波氏は声のトーンを強めながらそう返した。

 コーチ業に入ったばかりで伸びしろだらけの彼だが、「行けるところまで行きたい」と高みを見据える。目指すは「ディビジョン1(1部校)のヘッドコーチ」だ。

 もうひとつ、弓波氏が語気を強めて口にした目標がある。それは伊藤氏のチームを倒すことだ。

選手としての引退勧告をしてきたことを根に持って、というわけではない。昨シーズン、弓波氏はHC兼GMだった伊藤氏が「わざと」テクニカルファールを取られたり、感情的に怒ったりしながらチームに喝を入れるといった「かけひき」を使う姿を眺めながら、その熟達した指揮ぶりに感嘆していた。

 だからこそ、伊藤氏の“違う顔”を引っ張り出したいというのが、モチベーションだ。

「いや、これは本当に尊敬しているからこそ言えるんですけど、(伊藤氏は)すごい『スカしてる』感じなんです。常に一歩下がって見えてるんですよ。自分にはないんです、それが。すぐ感情的になってしまうので。(だから彼の)本性とか本当の顔を見たいんです、ボコボコにして。だから多分、1点差とかで勝っても彼は『まあまあ』みたいな感じなるので、毎回、ボコボコにして、悔しがる顔を見たい」

 弓波氏の声のトーンはやはり強く、同時に楽しげでもあった。

 アメリカに戻ってコーチをしたいという希望を持つ弓波氏と伊藤氏のチームが対戦する可能性はあまり大きくなさそうにも思えるが、多くの分野でと同様、バスケットボールを含めたスポーツの世界は、いい意味で小さくなっているから、何が起こるかわからない。

「これもヴェルカのいいところだと思うんですけども、別に全員がずっとヴェルカにいたいっていう感じじゃないんです、いい意味で。自分がもっと成長できるのならそっちに行きたいという人がほとんどで、コーチはみんな、そういうマインドセットを持っています。もしかしたら拓摩さんがアメリカのNBAに行くとなるかもしれないですし(伊藤氏は2018年10月から1年8カ月間、NBA下部組織・Gリーグのテキサス・レジェンズでコーチ研修に従事していた)、そうなったら同じ舞台でボコボコにしたいです」

 コーチ業に足を踏み入れたばかりの弓波氏ではあるが、もともと渡米の理由の一端となった伊藤氏のチームに加わり、そして将来はその彼を「ボコボコにしたい」と言う。作り話のようではあるが、実現すれば面白い。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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