連載小説:I’m BLUE -蒼きクレド-

[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第11話「ジパングウェイ」

木崎伸也 協力:F
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舞台は2038年。11月開催のインド・ワールドカップに向けて、日本代表は監督と選手たちの間に溝が生じていた。
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
 夜9時、日本代表の宿泊ホテル――。
 本来であれば各自が部屋でゆっくりしている時間だが、急遽チームミーティングが開催されることになった。
 ことの発端は紅白戦だった。秋山大監督が「笛が鳴ったら攻撃方向が180度変わる」という特別ルールを課したところ、選手たちが混乱してミスを連発。選手たちがルールに抗議し、途中で打ち切りになってしまった。
 苛立ちを隠さない選手たちに、秋山監督はこう告げた。
「夕食後にミーティングを行う。半年後のワールドカップ(W杯)に向けて、新たな段階に入る。君たちにプロジェクトの全貌を明かそう」

 玉城迅にとっては初めてのチームミーティングだ。遅刻するわけにはいかない。開始10分前にホテルの会議室に入ると、まだ誰も来ていなかった。
 がらんとした部屋を見渡し、玉城はどこに座るかを考えた――無難なのは2、3列目だが、それでは責任から逃げているような気がする。玉城は最前列のど真ん中を選んだ。チームメイトから「監督へのアピール」と見られるかもしれないが、そんなことを気にしていたら戦術改革を担えない。
 早速、部屋に入ってきた渋谷寛人が茶化してきた。
「選手評価に『ごますり』って項目欲しいな。玉城は余裕で満点だろ」
 渋谷の嫌味のジャブにも慣れてきた。玉城はジャブを打ち返した。
「『嫌味』って項目も欲しいですね。渋谷さんのために」
「うまく返したつもりかよ。部屋で大学のレポートでもやってろ」
 渋谷は目線を切って4列目に座った。
 続々と選手が姿を現し、キャプテンの高木陽介が最後尾の5列目中央に陣取った。長身のクルーガー龍やアチェンポン歩夢も5列目である。頭が邪魔にならないようにという配慮だろう。2、3列目には一宮光や桃川亮太といったまだW杯に出たことがない選手が集まっている。
 そして開始30秒前に、松森玲王と加藤慈英が有名コーヒーチェーンの紙コップを持って慌ただしく入ってきた。
 一宮が「ジェイ、遅いぞ」とヤジを飛ばすと、慈英がレオを指さして言った。
「こいつのせい。注文、遅すぎ」
 レオが肩をすくめた。
「マイ・バット。きなこオレと抹茶オレで迷ってさー。イングランドにはどっちもないから」
 ストライカー2人がいつの間にか距離を縮めている。何か通じるものがあったのだろうか。2人は一宮の隣りに腰を下ろした。

【(C)ツジトモ】

 8時ジャストに照明の光度が絞られ、秋山大監督が入ってきた。
 秋山がリモコンでプロジェクターを操作すると、スクリーンに過去のW杯の成績が現れた。
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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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