[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第6話「深まる監督への疑念」
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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選手と監督がうまくいっていない?
初招集2人からの質問に、慈英は溜め込んでいた憤りを吐き出すように答えた。
「監督と選手の間がぎすぎすし始めたのは、最終予選の初戦に負けたのがきっかけだった。それまでも決してうまくいっていたわけではないが、問題が表面化したのがその敗戦だったのさ」
相手はバーレーン。ワールドカップ(W杯)に出たことがない格下で、日本としては絶対に勝たなければならなかった。ところが前半9分にカウンターから先制され、そのまま逃げ切られて0対1で敗れた。
玉城が「敗因は油断?」と訊くと、慈英は人差し指を激しく左右に振った。
「ホント、学生はバカだな。相手は日本戦のために1カ月も合宿し、完璧な準備をしていたんだよ。聞くだけ無駄だが、シチュエーショナルプレーって知ってるか?」
玉城は内心ドキリとした。その戦術を考案したのは師匠のフランク・ノイマンだからだ。だが、ノイマンとの関係は秘密である。玉城は知らないフリをした。
慈英は得意げに話を続けた。
「学生じゃあ知らないよな。状況に応じてシステムがぐちゃぐちゃ変わるんだ。4バックとか3バックとか。それに惑わされて失点した」
慈英は見下すような目でこちらを見ている。玉城はカチンと来て、いじわるな質問を返したくなった。
「でも、それって可変システムと何が違うんだ? シチュエーショナルならではの特徴があるだろ」
慈英の表情が曇る。
「ただの可変とは全然違うんだよ」
「何か定義があるんじゃない?」
慈英は髪をかきむしった。
「学生ってホントうざいわ。俺が説明するまでもない。一宮を呼ぶ。そろそろホテルに着く頃だから」
一宮光、21歳。ベルギーのアントワーペでプレーする左ウイングだ。おそらく明日から自主練に参加するのだろう。慈英が携帯でメッセージを送ると、すぐに返信音が鳴った。
「チェックインしないで直接来れるらしい。やつが来る前にシャトーブリアンをたいらげるぞ。一宮は筋肉バカだから安い肉で十分だ」
デザートのアイスまで食べ終わったときに、一宮が店内に入ってきた。白いタンクトップから引き締まった腕が伸び、黒縁メガネをかけている。ジム帰りの銀行マンという雰囲気だ。
「ジェイがいきなり新人と食事なんて珍しいじゃん。お二人さん、よろしく」
玉城は握手しながら、一宮のメガネにレンズが入ってないことに気がついた。知的に見せたいのだろう。大学サッカー部にも何人かいる。
早速、一宮は筋トレの話を持ち出した。
「このあとみんなでジム行く? あのホテル、いい器具そろってるのよ」
慈英が「こんな夜に行かねーよ」と即答すると、一宮は悔しそうに自分の上腕二頭筋をなでた。
「おいおい『筋トレ隊』への勧誘をじゃますんな。玉城くんもレオくんも筋トレが好きかもしれないだろ」
玉城は聞き慣れないワードに、思わず反応してしまった。
「筋トレ隊ってなんですか?」
「フフフ、興味ある? 代表期間中にジムに集まって、一緒に汗を流す有志のグループさ。ジェイはいくら誘っても入らなくてね。玉城くんもレオくんも、いい体してるねえ。ぜひ来てよ」
慈英が呆れた声をあげた。
「やめとけ、やめとけ、陰キャの集まりで、隊って言っても3人しかいねーぞ。そんな話はいいんだ。まずはシチュエーショナルプレーを説明してくれ」
【(C)ツジトモ】
「いいよ、戦術論ね。僕は難しい話を簡単に話すのがうまいから」
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