連載:「知られざる審判の世界」野球とサッカーを支える“フィールドの番人”

ここが違うよJリーグとプロ野球 家本政明×坂井遼太郎、元審判員のここだけの話【特別対談】

吉田治良
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サッカーの家本氏(左)と野球の坂井氏(右)。プロスポーツの元審判同士による対談は、選手との関係性からお金の話まで、話題は多岐に及んだ 【スポーツナビ】

 2021年シーズンをもって審判の世界から勇退した、サッカーの元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏と、オールスターゲームもジャッジした元プロ野球の審判員で、18年に引退した坂井遼太郎氏による「異競技審判対談」。日本の2大プロスポーツを陰日向になって支えてきた2人が、あまりよく知られていないプロ審判の実態について、本音でトークしてくれた。前後編に分けてお届けする第1回目の大きなテーマは、「選手とのコミュニケーション」だ。

瞬間的に見えていないことも結構ある

──家本さんは野球をやられた経験が?

家本政明(以下、家本) 僕は生まれが広島県の福山市で、父親が巨人ファン、母親がカープファン。小さい頃は野球やソフトボールのチームにも入っていましたよ。

──今も野球はご覧になるんですか?

家本 今はあまり見なくなりました。これは勝手なイメージかもしれませんが、野球の審判のほうがサッカーのレフェリーよりも絶対的な権限を持っているというか、より崇高ではないですか。サッカーの場合は(審判と選手が)上下というよりは試合を創る仲間という意味で横の関係に近いんです。競技規則の前文にも、「関わっている人みんなでフットボールを楽しみましょう」と謳われている。だからサッカーには楽しいイメージがある一方で、野球はちょっと怖いなっていうか(笑)。

坂井遼太郎(以下、坂井) 野球の規則書には、「異なる2チームの間に審判員がいて試合をする競技である」、みたいな感じで書かれていて、そもそも「選手と一緒に」っていう概念がないんです。サッカーは選手同士の関係性もフランクですよね。

家本 そうですね。下の人間が上の人間を呼び捨てにするのは、一般社会ではなかなか受け入れがたいんですが、試合中は緊急性が高いですし、素早い意思疎通が必要ですから、先輩・後輩関係なく呼び捨てが多いです。

坂井 選手が審判を呼び捨てにすることも?

家本 ありますよ。おいとか、てめぇとか(笑)。

坂井 野球界もそうですね。特に僕は審判になったのが20~21歳と若かったので、普通に呼び捨てにされていました。ちなみに審判の上下関係はキャリア年数で決まるんです。選手は年齢なんですけどね。

家本 サッカーの場合は、優先順位があるとすれば年齢。同じカテゴリーでキャリア3年目の45歳と10年目の40歳なら、基本的には45歳のほうが上ですね。

坂井 野球だと、例えば元阪神のAさんとBさんがいて、現役時代はAさんが先輩だったのに、後輩のBさんが先に審判になって、あとからAさんが審判の世界に入ってくると、急に上下関係が逆転するんです。もう意味が分からない(笑)。僕の周りはほとんどが年上の後輩で、特に一緒に食事に行った時なんかはお会計の時に気を使いましたね。

──基本的なところですが、野球は止まった状態でジャッジする、一方のサッカーは動きながら。家本さん、野球の審判は楽そうだなって思いませんか?
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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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