[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第17話 動き出した有芯の計略

木崎f伸也
 有芯はパンチを、ジャブからストレートに切り替えた。

「今日のハーフタイム、ジョーさんが交代してから、めちゃくちゃプレーしやすくなったんですね。水島とクルーガーもそう感じてた。それって、アッキーさんがリーダーになって、ピッチを仕切ったからだと思うんですよ」

「後半はいつもの4−3−1−2に戻したからだろ」

 秋山は認めようとしない。

「謙遜は似合わないですよ。今日、後半15分にアッキーさんがすげえ縦パスを出してくれたじゃないですか。あんなプレーをもっと代表でやりたいんですよ。W杯でブラジルに勝ちたいじゃないですか」

「勝ちたいのと、キャプテンの話は別だ」

「別じゃないです。ジョーさんがキャプテンをやっていることで、このチームにはブレーキがかかっている。新監督もまだ正式にキャプテンを指名してない。ヨーロッパでは投票でキャプテンを決める監督もいるじゃないですか。僕らにアッキーをキャプテンに推薦させてください」

 横からクルーガーが「上下関係なんて気にしてもつまらへんで」と援護射撃した。有芯は畳み掛けた。

「ジョーさんは肩書きにこだわるような器の小さい人じゃない。このあと0時半から先発した選手で集まるときに、キャプテンの交代をジョーさんに持ちかけましょう。僕が提案します」

 秋山は有芯の目を見たまま、視線を動かさず、しばらく黙っていた。迷っている――。有芯はそう解釈した。

 だが、秋山はフッと笑うと、視線を外し、再び携帯に目をやって話し始めた。

「おまえにパスを褒められてうれしいよ。また次も出せるようにする。ただ、やはりキャプテンは監督が決めることで、俺がどうこうすることじゃない。このチームのキャプテンはジョーさんだ」

 秋山は席を立った。

「選手ミーティングで妙なことはするなよ。俺はもめ事が嫌いなんだ」

 有芯は「ほーい」とぶっきらぼうに答えて、ほっぺたに空気を入れて膨らました。

 しかし、あくまでこれはポーズである。クルーガーが「Feigling(臆病者)」と小声でつぶやいたのを、有芯は「まあ、予想の範囲内でしょ」とたしなめた。

「そんな簡単にアッキーは変わらないよ。それでも若手に言われて、何か刺さったはず。のちに効いてくるはずだよ」

「日本人のグループってややこしいワ。今日の選手ミーティングは退屈になることは決定やな。欠席しよかな」

 ここで水島が、なぜか日本の歴史を持ち出した。

「結局、日本の組織はどこも徳川幕府スタイルなんです。待っていればいずれトップが退任して、自動的に次が昇格する。みんな順番待ち。争いを好まない。でも、戦国時代は違ったんです。下克上が当たり前で、トップの座は力で勝ち取るものだった。秋山さんはまさに徳川幕府的な人。いざこざを起こさず、次を待っているんだと思います」

【(C)ツジトモ】

 有芯は「器がちっちゃいぞー」と言って天井を見上げた。

「アッキーの徳川的って見立て、すげえ面白い。じゃあ俺たちが戦国時代に時計を戻そうか。計略、本気で働かせよーかなー」

 クルーガーが「ケイリャク?」と聞くと、有芯はうなずいた。

「サッカーの作戦みたいなものよ。ある人の部屋に、これから1人で行って来る。その人に動いてもらう。ああ興奮したら、またお腹が空いてきた。食べてから作戦会議しよー」

 有芯はデザートが並ぶビュッフェの一角に向かい、好物のイチゴをおかわりした。

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第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始

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