[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第7話 選手の主張、監督の諦め
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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【(C)ツジトモ】
この前日、日本代表のフランク・ノイマン新監督の就任会見が行われた。メーメット・オラル監督が事故に遭い、友人のノイマンが“臨時監督”として2030年W杯限定で指揮することになったのだ。
会見でノイマンは「アーカイブルームにこもって、オラルジャパンの試合と練習をすべて見返す」と語っていた。鋭い目を持った戦術家なら、きっとオラルジャパンの戦術変更のきっかけになった試合に気づくだろう。そう、日本が0対1で敗れた、あの灼熱のシリア戦に――。
この試合はシリアが内戦中のため、中立地のオマーンで行われた。砂漠にいるかのように日差しが強く、90分間高い位置でプレスをかけ続けるのは難しい環境だった。
そこでオラルは暑さを考慮し、いつものように前からプレスをかけず、中盤で相手を待ち構える戦術を採用した。体力を温存する戦い方だ。それにともない、いつもの2トップではなく、次のような4−3−3で臨んだ。
【(C)ツジトモ】
相手のシリアには欧州でプレーする選手がいないのに対して、日本にはマンチェスター・ユニティの松森虎、リゴプールの高木陽介、ASミランの秋山大、そしてユベンテスの丈一など、欧州のビッグクラブでプレーする選手がそろっていた。純粋な戦力の足し算で言えば、普通にやれば勝てるはず――だった。
だが、試合開始から、ゲームを支配したのはシリアだった。日本が混乱した原因は、シリアが予想とは違うやり方をしてきたことにあった。
事前の分析によれば、シリアは4−3−3の布陣で守り、その形を保ったまま攻めてくると見られていた。しかし、この予測は大外れする。シリアは攻撃時に右ボランチが後ろに下がって3バックになり、一方サイドバックはFWの位置まで上がり、3バック+2ボランチ+5トップという変則布陣に変形したのだ。