男子の有力チームが応募せず ハンドボールの次世代型プロリーグが“割れた”背景と影響

大島和人

代表理事の受け止めは?

記者の「囲み取材」に応じる葦原一正代表理事 【大島和人】

 JHLの男女計6チームが新リーグに「応募をしなかった理由」に関して、葦原代表理事はこう受け止めている。

「参入申込みをしなかったチームの理由として一つ考えられるのはまず福利厚生、実業団リーグで引き続きやっていきたいということです。もう一つ考えられるのは参入審査の基準を満たすのが難しくて、審査を断念した可能性もあると思っています」

 参入基準の中でもアリーナ要件は実業団、クラブを問わず高いハードルだ。また各チームにとって「リーグの事業計画」「配分金の額」は関心の大きなテーマだった。年間の売上や収支は試合数が確定するまでは試算が難しい部分で、参加のメリットを確信し切れないチームはあっただろう。自力で事業化へ取り組んでいるジークスター東京にとって“ビジネス面”で折り合うのが難しかった事情は分かる。

 新リーグの発足後も現行のJHLは存続するため、応募しなかったチームの歴史が途絶えるわけではない。2025-26シーズン以降も新規参入の応募は継続される予定だ。とはいえ男子の強豪が“割れた”ことは間違いない。

 「協会会長がオーナーを務めるチーム」の不参加について、葦原代表理事はこう述べる。

「基本的には協会とチームは別人格なので、協会会長というお立場でリーグのトップを選定する話と、チームの立場で構想に賛成・反対するのは分けなければいけないと思う。最終的にはあくまでも、チームとしての判断なのでそれはもう仕方ない」

「プロ化志向」のクラブが応募せず

 ジークスター東京の姿勢についてはこう口にしていた。

「プロ化志向も強かったので、基本的に思想は近いと思います。コミュニケーションの流れから、基本的には(応募の)来る可能性が高いだろうと思っていました」

 しかし結果として新リーグに応募しなかった。ジークスター東京はチームの公式サイトでこのようなリリースを出している(以下抜粋)

「日本のハンドボール界にプロリーグが誕生することは選手、チーム、そしてファンにとってもおおいに期待できることであり、ハンドボール界の未来を切り開こうとしているジークスター東京とも方向性は合致します。
今後、さまざまな背景を持つ各チームの意見が十分にくみ取られ、新リーグの事業計画や、ESG(著者注:環境・社会・ガバナンスの意)時代にふさわしい運営体制・手法、情報開示等に納得できた段階で改めて参入を検討する予定です。ジークスター東京はこれからもハンドボール界の発展に尽力していきます」

 プロリーグの誕生という“大同”を肯定し、今後の応募についても含みを残している。一方で新リーグの事業計画や運営体制・手法、情報開示に対して“小異”を唱える趣旨にも読める。

 納得できた段階で改めて参入を決定する判断は一つの見識だ。とはいえ2025年以降までチームの方針が定まらない状態が続けば、選手もキャリアの選択に困るはず。2年、3年という年月の空費がアスリートに与える影響は極めて重い。

“分裂”は新リーグ立ち上げの障害に

 当然ながら有力チームの不参加は新リーグのスポンサー集め、事業化にとってポジティブな材料にはならない。またJリーグやBリーグも見ても分かるように新リーグの発足は新規のファンを取り込む最大のチャンスだ。「しばらくたってから本格化させる」というスピード感では、本格化する前にフェイドアウトするだろう。

 とはいえJHLの男女23チーム中17チームが新リーグに応募した。不透明さがある中で、これだけ挑戦するチームが出たことも確かな現実だ。野球やサッカーに比べればケタの違うささやなか経営規模だが、彼らはファンや地域に根ざすプロリーグとして、未来に向かおうとしている。ハンドボール界が中長期的に生き残るためにも“自立”の意義はあるはずだ。

 不参加を選択したチームにも、それぞれの覚悟とビジョンがあるに違いない。それがわれわれの想像をいい意味で超える、ハンドボール界をより良い方向に導くものであることを願いたい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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