男子の有力チームが応募せず ハンドボールの次世代型プロリーグが“割れた”背景と影響

大島和人

日本ハンドボールリーグは24年9月に次世代型プロリーグを発足させる予定 【写真は共同】

 バスケットボール、バレーボール、ラグビー――。過去10年間の日本スポーツを振り返ると、さまざまなトップリーグがその改革とチームの経営的な自立を模索してきた。日本ハンドボールリーグ(JHL)も、プロを視野に入れた改革に踏み切ろうとしている。

 彼らが次世代型プロリーグと位置づける構想に対して、各チームがどう反応するのか?それを確かめる最初の機会が「参入審査申請」の発表だった。

新リーグへの応募チームを発表

 9月1日、JHLの葦原一正代表理事は東京都内で記者会見を行い、2024年9月の開幕を予定する新リーグに応募したチーム(および団体)を発表した。参入審査申請書類の申込は8月末で締め切られており、男女合わせて19チームからの申込みがあった。

 申請を行ったのは下記のチーム(および団体)だ。

【男子】 9チーム

アースフレンズBM(東京都)
富山ドリームス(富山県)
福井永平寺ブルーサンダー(旧北陸電力/福井県)
大同特殊鋼Phenix(愛知県)
トヨタ車体ブレイヴキングス(愛知県)
豊田合成ブルーファルコン(愛知県)
TeToTeおおさか堺(大阪府)
トヨタ紡織九州レッドトルネード(佐賀県)
琉球コラソン(沖縄県)

【女子】 10チーム

プレステージ・インターナショナル アランマーレ(富山県)
北國銀行ハニービー(石川県)
飛騨高山ブラックブルズ岐阜(岐阜県)
HC名古屋(愛知県)
三重バイオレットアイリス(三重県)
大阪ラヴィッツ(大阪府)
イズミメイプルレッズ(広島県)
香川銀行GiraSol(香川県)
オムロンピンディーズ(熊本県)
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングブルーサクヤ(鹿児島県)

男子は「12分の5」が応募を回避

 男子の富山ドリームス、TeToTeおおさか堺は未参入だが、応募19チームのうち17チームは現行のJHLに参加している。女子はテラスホテルズを除く全チームが応募をしたのに対し、男子は判断が分かれた。今季のJHLに参加している12チームのうち、トヨタ自動車東日本、大崎電気、ジークスター東京、湧永製薬、ゴールデンウルヴス福岡の5チームが応募を回避した。

 新リーグのチーム数は未確定で、ここから“落とされる”チームもあるだろう。参入審査委員会はこの9月にスタートし、10月21日に参入チームの発表を予定している。審査委員長はJHLの理事で、公認会計士の米田恵美氏が務める。

 新リーグは1,500人以上を収容するホームアリーナの確保、11名以上のプロ契約などを参入条件に掲げている。一方で社業と競技の“兼業プロ”は認められていて、キャリアの安定化や人件費負担の抑制が可能だ。サッカー、バスケのプロでは必須とされているチームの独立法人化も義務づけられていない。

 なおスポンサーセールス、チケット販売などのビジネスサイドは、リーグが一括して引き受ける制度設計だ。リーグの年会費は3000万円に値上げされるものの、それを大きく上回る配分金が予定されている。アリーナの確保、地域との関係づくりなどは相応に高いハードルだが、実業団でも受け入れやすい参加要件だ。

協会会長のチームが応募せず

 会見で質問が集中したのはジークスター東京と湧永製薬の“不参加”だった。ジークスター東京はリーグを代表するスター軍団で、新興勢力ながら精力的な引き抜きで強化を果たしている。東京五輪で日本代表のキャプテンを努めた土井レミイ杏利や元フランス代表のリュック・アバロらが在籍し、おそらく日本でもっとも“客を呼べる”チームだ。

 また湧永製薬は日本ハンドボール協会の湧永寛仁会長がオーナーを務める名門。湧永会長はJHLの法人化、外部人材招へいを主導した当事者でもある。宮崎大輔(現アースフレンズBM選手兼監督)を輩出し、6回のリーグ優勝を誇る大崎電気も応募がなかった。大崎電気は日本ハンドボール協会の渡邊佳英・前会長(現名誉会長)を輩出した企業。協会の“現会長”と“前会長”のチームが新リーグへの応募を足踏みした。

 JHLの葦原代表理事は野球、バスケでキャリアを積んできたプロスポーツの専門家だが、ハンドボール界においては新参者だ。彼に対してハンドボール界の“権威”が一線を画した構図も透けて見える。

 男子バスケでは実業団がプロ化に抵抗し、リーグの分裂や混乱の一因となった。しかしハンドボール界は「プロvs.実業団」の対立構図は見えない。2021-22シーズンの“二強”だった豊田合成ブルーファルコン、トヨタ車体ブレイヴキングスや、通算18回のリーグ優勝歴を持つ大同特殊鋼などの実業団も新リーグに応募している。むしろプロ側の筆頭にいるジークスター東京が同調しなかった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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