浦和の守護神・西川周作のモデルチェンジ「シンプルに、もっとうまくなりたくて」

沖永雄一郎

もっと成長したいし、代表にも入りたい

ジョアン・ミレッGKコーチ(中段左から2番目)の指導が「自分に合っている」という西川(下段から右1番目)。素直にアドバイスを受け入れたのは、まだまだ成長したいとの欲求があるからだ 【(C)J.LEAGUE】

——今季は守備範囲がすごく広くなったなと感じます。ただ、15年に膝の関節ネズミに悩まされ、16年の初めに手術をしたあたりから、少しプレーがスケールダウンしてしまった印象もありました。やはりケガの影響があったのでしょうか?

 今だから言えますが、当時はもう膝の上から触っても分かるくらいのネズミがあって。僕は半月板がないので、それが膝の後ろ側にグリンと回ることがあるんですよ。そうなると(膝が)曲がらないし、伸びないし、腫れてしまう。(ネズミが)後ろにいる時は、トレーナーさんにほぐしてもらって、前に来るようしてから試合をするみたいな状態でした。ですので15年は(利き足の)左よりも右足で蹴ることが多かったですね。それで、もう取っちゃおうと手術をして、16年は膝の調子も良くていい感覚だったんですけど、17年にまた腫れるようなことがありました。それで思うようなプレーができず、ストレスを感じながらやっていましたね。

——今年はまた成長曲線がグッと上向いた感じですが、体調面も良さそうですね。

 体調はいいですね。大きなケガもなく膝の調子もいいですし、ジョアンのトレーニングが合っている感じはあります。彼は試合の翌日に、平気でフィジカルトレーニングをするんですよ(笑)。沖永さんも沖縄キャンプでメニューを見たと思いますけど。
——一度、追い込み過ぎて倒れた日がありましたよね。

 あれを月に1回のペースでやるんですけど、ちょうど試合の次の日がそれに当たった時は、死にましたね(笑)。でも、沖縄の時よりいけるな、成長しているなと(笑)。リカバリーっていう概念がなくて、試合翌日も普通にトレーニングをしているのが、僕的にはいいんですよね。

——ただ、そのジョアンの指導も、過去には合わなかった選手もいたと聞いています。浦和においても、当初は若い彩艶選手は伸びそうだが、ベテランの西川選手は苦労するんじゃないかという見方がありました。西川選手のような豊富なキャリアの持ち主が、どうしてここまでオープンにジョアンの指導を受け入れられたんでしょうか?

 シンプルに、とにかくうまくなりたかったからです。もっと成長したいし、代表にも入りたいという思いがあるので、ちゃんと聞き入れることが大事だなと。ジョアンは、日本人の良い点は素直に聞き入れ、受け入れてくれるところだと言っています。スペインだと、俺の話は聞いてもらえないよって(笑)。それに僕も年齢じゃないんだぞ、まだまだやれるんだぞってことを証明したいんです。

——ある意味、モデルチェンジに挑んでいると思いますが、抵抗はまったくありませんか?

 ないですね。より良くなるために、もう何でもチャレンジしたいなっていう感覚なので。今はすごく充実感がありますし、地に足をつけてやれている感じもあるので……(しみじみと)楽しいっすね。やっぱり否定から入ると、良いアドバイスも取り入れるのは難しいと思いますから、とにかくオープンに。ジョアンからは最初に「今までやってきたことをリセットして、まずは俺の話を聞いてくれ」と言われて、こちらも「分かりました! 忘れます!」って(笑)。

——もう一段上がるきっかけが欲しかったり、壁を感じていた部分もあったのでしょうか?

 自分の中で、もっとうまくなりたいけど問題の解決方法が見出せないと感じていたのですが、そんなタイミングでジョアンが来ると聞いて、これかなと。技術面の指導はもちろんですが、ジョアンは常にGKのことを理解し、味方になってくれて、GK陣をチームとしてまとめてくれてもいます。だから(牲川歩見も含めた)僕たちGK3人は非常にプレーしやすいですし、それが思い切ってできている理由かなと思います。

——練習でも、最初と最後はGKチームのミーティングがありますよね。

 試合後も試合の翌日も、「今回プレーをしたのは周作だけど、ここではオープンに良いところ、悪いところをしゃべろう」といった感じでミーティングの時間を設けてくれています。みんなで話すことで、同じ方向を向いてやれている感じがありますね。

——GKのプレーに対する評価として、「これはノーチャンス」という表現があるじゃないですか。失点の責任をGKだけに押し付けてはいけないという意識からだと思いますが、プロとしてはどう感じますか?

 あー、嫌ですね(笑)。まだまだやることがあっただろう、もっとできただろうって思っちゃいます。「ファインセーブ」という表現も、実際はファインじゃないことが多かったりしますから。派手なプレーをすればファインセーブに見えちゃうっていうのが……悲しいですね。まあ、自分がそう書かれたら悪い気はしないんですけど(笑)、でも内心、ちょっと違うんだよって。

延長・PK戦になっても慌てないこと

17年のACL決勝でアル・ヒラルを撃破し、10年ぶり2度目のアジア制覇を果たした浦和。当時を知る西川が最後尾に構える安心感は、とてつもなく大きい 【Getty Images】

——そろそろACLの話に戻りたいと思います。当初、ノックアウトステージはマレーシア開催という噂もあり、JDTのホームで戦う可能性があったわけですが、それが最終的に埼玉での開催になったのは、やはり大きいですよね。

 ただ、向こうでもやりたかったなという思いはあります。それでこそACLだなと思いますし、今の浦和には“どアウェイ”の雰囲気を経験したことのない選手が多いですから。今後の大きな糧にもなっただろうし、欲を言えばホーム&アウェイが良かったですね。コロナ禍の影響でイレギュラーな部分があるのはちょっと悲しいですが、ホームで一発勝負となったからには結果を出さないといけませんから、そこは責任をもって挑みたいと思っています。

——ノックアウトステージでは、どういったところがポイントになるでしょうか?

 点がなかなか入らない状況は考えておかなければいけないと思っています。僕はGKですし、90分で決めようとは考えないようにしています。他のみんなは90分で決めたいとか、得点を決めて勝ちたいという気持ちで戦ってもいいと思いますが、そこは危機感というか。ゴールを守る最後の砦として、最悪の状況は想定しておく必要があるでしょうね。ですので、点が入らなくても焦れずに、我慢強くやろうとチームに声がけをすること、そして延長・PK戦になっても慌てないことがポイントになってくると思います。

——今年はまだ、先制された試合で勝てていないというデータもあります。

 そうなんですよ(苦笑)。ただ、逆に先制すればという思いもあるので、まずはしっかりとした守備から。それでも一発勝負ですしね。開始早々から自分たちが戦う姿勢、前から行くんだという姿勢を見せるだけでも絶対に違うと思うので、そこは行きたいですね。

——JDT戦はキックオフが20時と遅いこともあり、DAZNのライブ配信を見て応援する方も多いと思います。現地観戦のファンとDAZNで観戦するファンの両方に向けて、メッセージをいただけますか。

 はい。ノックアウトステージの初戦は非常に大事になりますが、埼玉スタジアムでできるということをプラスに考えて、みなさんと一緒に戦いたいと思っています。(ガッツポーズをしながら)心強い後押しをよろしくお願いします! アジア制覇に向けて頑張ります!

(企画・編集/YOJI-GEN)
西川周作(にしかわ・しゅうさく)
1986年6月18日生まれ。大分県出身。小学4年生からGKでのプレーを始める。大分トリニータU-18に入団し、2005年にトップチーム昇格。高卒1年目にして正GKの座を奪った。10年にサンフレッチェ広島へ移籍。12、13年シーズンのJ1リーグ連覇に貢献する。14年から在籍する浦和レッズでは、3年連続でJリーグベストイレブンに選出されるなど不動の地位を築き、17年にはACLを制覇。2年ぶりにキャプテンを務める今季は、第21節のFC東京戦でJ1最多となる通算170試合無失点の記録を達成した。05年のワールドユース(現U-20W杯)、08年の北京五輪に出場。09年10月8日の香港戦でA代表デビューを飾る。日本代表通算31試合・0得点。

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