浦和の守護神・西川周作のモデルチェンジ「シンプルに、もっとうまくなりたくて」

沖永雄一郎

第21節のFC東京戦で、J1最多となる通算170試合無失点の記録を達成。頼れる守護神の存在は、ACLのノックアウトステージに向けても心強い 【Getty Images】

 日本で開催され、DAZNでもライブ配信されるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のノックアウトステージ。日本勢3チームの中でも、とりわけ大きな地の利を得るのが、地元・埼玉で戦える浦和レッズだろう。2017年のアジア制覇を知るベテランで、今季、新任のジョアン・ミレッGKコーチとの二人三脚でモデルチェンジを図る守護神・西川周作が、8月19日に迫った一発勝負のラウンド16、マレーシアのジョホール・ダルル・タクジム(JDT)との大一番に向けて意気込みを語ってくれた。

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埼スタ開催はこれ以上ないシチュエーション

——(代表戦による中断期間が明け)リーグ戦が再開してから、浦和レッズは好調が続いています。ここ最近のチームの状態、雰囲気はいかがですか?

 ようやく歯車が嚙み合ってきたなという感覚があります。全員が守備をしてくれているので失点は抑えられているし、これまでは攻撃面のパワーや質に少し物足りなさを感じていましたが、中断期間にかなりの時間を攻撃(の練習)に費やした成果も出てきています。足を振ることや、ミスを恐れないというところをリカルド(・ロドリゲス)監督から要求され、「ミスをしてもいい、ただミスをした時は次につなげよう」という雰囲気も生まれてきていると思います。

——前半戦はあと一歩という惜しい試合が続いていて、結果がメンタルにも影響しているように感じられました。

 今は非常にいい雰囲気でみんながやれていると思いますし、練習の質にもとにかくこだわっています。簡単なシュートでもしっかり決めるという意識を、練習から植え付けています。

——AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のラウンド16が近づいてきましたが、あらためてグループステージの戦いを振り返ってください。

 ACLの難しさを感じるのはノックアウトステージからかなと思っていますが、やっぱりこの大会に出る、出ないではシーズンの充実感がまったく違います。グループステージの6試合ではほとんどの選手がピッチに立つことができましたが、こうして国際経験を積んだことで、より試合に出たい、結果を残したいという欲が、チームのみんなに出てきていると思います。

——グループステージでは鈴木彩艶選手がメインで起用され、西川選手は控えに回る時間が長くなりました。その間のメンタルコントロールは難しくありませんでしたか?

 そこは昨年の経験もあるので落ち着いていて、とにかく自分がやらなければいけないことをやろうという話をジョアン(・ミレッ)GKコーチともしていました。コミュニケーションをとってトレーニングもできていましたし、必ず出番は来ると感じていたので、自分が(スタメンを)任された時にしっかり結果を残すことだけを考えながら過ごしていました。

——西川選手は過去に何度もACLを経験されていますが、グループステージから集中開催方式となった今大会に、これまでとは違った難しさを感じましたか?

(浦和がグループステージを戦った)タイではずっと連戦だったので、大会が始まってしまえば、試合をしてトレーニングをしてのリズムができました。移動もなく、ホーム&アウェイよりも戦いやすかった面はあったと思います。ただ、過去の大会と比べると「ACL感」は少ないかなと感じましたね。

——中立地なうえに、多くの浦和サポーターも駆けつけてくれたので、アウェイの雰囲気はまったくなかったですよね。

 ファン・サポーターの方々が大きな声で応援してくれて、逆にホーム感があったというか、戦いやすさは間違いなかったですね。

——ノックアウトステージは日本開催で、しかも地元・埼玉での試合となります。

 やっぱりアジアを獲りに行くうえでファン・サポーターの存在は大きいですし、過去のACLでの彼らの後押しには、鳥肌が立つものがありました。今回、埼玉スタジアムで対戦することは、相手にとっては間違いなく嫌だと思いますし、僕たちにとってはこれ以上ないシチュエーションですね。

——ラウンド16の対戦相手、マレーシアのジョホール・ダルル・タクジム(JDT)の研究や対策の落とし込みは、まだこれからですか?

 そうですね。ただ、外国籍選手のクオリティが非常に高いのはグループステージの映像からも分かりますし、その後に補強もしているという情報も入っています。昔のマレーシアのチームは、代表も含めてそれほど力がないイメージでしたが、今は違います。それに一発があるのがACLですから、特に外国籍選手には気をつけないといけないですね。

——グループステージでもシンガポールのライオン・シティ・セーラーズと対戦しましたが、東南アジア全体のレベルが上がってきていると感じますか?

 そう思います。昔、代表で戦った時は、技術的にもフィジカル面でも日本の選手が上回っている印象がありましたが、最近の東南アジア各国の代表チームを見ていても、そんなことはないと感じますし、確実にレベルは上がっています。

ジョアンの教えがプレーの助けになっている

今年6月で36歳になった西川だが、新しいスタイルを取り入れながら、さらなる進化を遂げている。インタビュー中の表情からも現在の充実ぶりがうかがえる 【YOJI-GEN】

——レベルが上がったと言えば、今季の西川選手のクロス対応もそうです。ポジショニングから変えた感じでしょうか?

 そうですね。ボールの位置に対してのポジショニングについては、「なぜここでも大丈夫か」「こう動けばこっちに来ても問題ない」といった解決策を、徹底的にジョアンから教えてもらっています。常にそのプレーに対しての「なぜ?」という問いかけと、「なぜならこうだから」という答えをセットで教えてもらっているので、自分の中で落とし込みやすいというか、納得できる部分が多々あります。ジョアンの教えは、本当に僕のプレーの助けになってくれています。

——動き始めるタイミングですが、今の西川選手を筆頭とする浦和のGKチームを見ていると、クロスが上がってからちょっと我慢して動いてるのかなと。

 そこはおっしゃる通りで、別に先に動かなくても、来たボールの分析をして、スタートの足がちゃんとできていれば良いステップで動けるんだと。僕も以前は細かくステップをしていたのですが、「大股の1歩・2歩・3歩でここまで来れるんだぞ」というところも、ジョアンに教えてもらっています。ある程度ファーに流れても、身体を開いて1・2・3歩くらいで行けば問題ない。最初は考えながらだったので、落とし込むのに少し時間はかかりましたが、今は試合でも実践できているなという感覚があります。

——ステップはキャンプの初日からかなりやっていたと思いますが、歩幅でそれほど違うものですか?

 違いますね。小股で2~3歩で行くところを1歩で行っちゃえば時間のロスもないですし、よりパワーも使えます。あとはキャッチに行ったけど難しいなと判断した時の対処法、例えば手のひら側を使ってのパンチングなども教えてもらっています。そういった一つひとつの解決法を学んでいるので、とても落ち着いてプレーができています。

——ポジショニングで言うと、特にセットプレー時にかなりニアを空けているように見えますが、怖くはないですか?

 最初はすごく怖かったです(笑)。キャンプでもニアを空けておいてからの練習をいろいろやりましたが、ジョアンは「問題ない、必ず(ニアにも)行けるようになるし、戻り方さえ習得すれば大丈夫」だと。コーナーキックでは、ストーンの選手に任せるところは任せて、中に上がったボール、自分の目線より高く上がったボールは行こうと。そういう意識でやっているので、もう怖さはなくなりましたね。

——僕も一応GKだったのですが、ニアを抜かれるとすごく怒られるじゃないですか。なのでポストに張り付くようなポジショニングをしていました。でも、そこに解決方法があれば大胆に行ける。

 以前は僕もやっていたのですが、出て行けないボールに対して、ゴールライン上に下がるGKって多いじゃないですか。でも、下がるということはコースが空くことでもありますよね。「下がる時間があるなら、逆になんで出ないんだ。時間は一緒だぞ」とジョアンに言われて、確かにそのとおりだなと思いました。そこの足の運びや身体の向きを徹底して教えてもらっているので、下がって対応することは少なくなったかなと思います。

——一般的には、出られないのだったらライン上まで戻って、ちゃんとシュートに備えましょうと指導されますよね。

 下がった方が良い時もありますが、ジョアンの教えからすると「ゴールは存在しないもの」なんです。後ろのゴールを守るんじゃなくて、下がらずに(手を広げて届く範囲をジェスチャーしながら)このへんを守れば、角度的に届かないボールはもうアウトなんだからと言っていますね。だからゴールを意識するな、ゴールを意識するから下がるんだと。

——ニアの話と同じで、これも分かっていても怖いですよね。

 そうですね(笑)。でも、自分はここまで飛べるんだというのが分かる練習をしてくれていますから。今までやったことないようなシンプルな練習なんですけど、そのおかげで、遠くに感じていても意外といけるっていうことが多いんです。

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