久保建英と中村俊輔と、フリーキック 1年ぶりの再会で2人は何を感じ取ったのか

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久保建英(左)はスペインに戻る前に中村俊輔(右)と1年ぶりの再会を果たしていた。その理由は―― 【WOWOW】

久保にとってチャンス「盗めるものがあれば」

 夏の日の朝、久保建英はある人物の到着を待っていた。

 日本代表の4連戦を終え、つかの間の休息を挟んだ久保は新シーズンに向け個人練習に励んでいた。

 カタール・ワールドカップまで5カ月を切った。いい状態でスペインへ戻り、新シーズンに突入する。胸にはそんな思いがあった。

 ブルーの練習着を身につけた久保の表情に、どことなく緊張感が漂う。

 彼には、日本にいる間にどうしてもやっておかなければならないことがあった。

 グラウンドの向こうからやってきた中村俊輔は笑みを浮かべ、1年ぶりだねと柔らかな声をかけた。

「よろしくお願いします」

 久保は深々と頭を下げ、ふたりは拳を合わせる。目前に広がる芝の向こうにはゴールマウスが見える。ペナルティーエリアの外に、陽光に輝く白いボールが散らばっていた。

 1年ぶりの再会には理由があった。

 2021年夏、久保と中村は対談を行った。テーマのひとつはフリーキック。中村にもらった言葉を胸に久保は21-22シーズンに挑み、スペイン国王杯では見事な直接フリーキックを決めている。

 しかし久保が満足することはなかった。昨季、マジョルカと日本代表で外したフリーキックの残像がはっきりと頭に残っていたからだ。

 名実ともに日本サッカー史上最高のキッカーである中村に間近でキックを見てもらう。久保にとってはこれ以上ないチャンスだった。

「ありがたい機会です。なんとか盗めるものがあればと」

 中村を見つめる久保の目は真剣そのものだった。

中村に教える意識はない「何かが生まれれば」

中村俊輔がセルティック時代にマンチェスター・ユナイテッド戦で決めた直接フリーキックは語り草になっている 【Photo by Getty Images】

 一方、中村の頭には久保にフリーキックを教える、という意識はなかった。

「教えるというよりも、フリーキックを通してお互いが求めあって、そこに何かが生まれれば」

 昨シーズンの久保のフリーキックはチェックしてあった。国王杯で決めた1本に、6月の日本代表戦でトライしたフリーキック。「見ていて、意識しているというのはすごく感じた」と中村は言う。

 あらためて、国王杯で決めた場面をモニター越しにふたりで眺めた。左足のキックはきれいな弧を描きネットを揺らした。

「この蹴り方がベストな感じ?」
 
 中村が聞く。

「この蹴り方だとどこに行くかが自分でも分からないんです。めちゃくちゃ浮いたりとか……。いい時はこうなるけど、10回蹴っても10回はこうはいかない。球筋もフォームも違って、結局、同じものを蹴れないので。まずはフォームを統一したいと思っています。毎回同じボールを蹴りたいなと。入らなくてもいいので、同じボールを蹴って、同じように飛ぶような」

「練習後、フリーキックは蹴れない? 監督によるよね」(中村)

「昨シーズンは練習後も蹴っていました。最初の監督はやらせてくれて、それでうまくなっていた」(久保)

「いいね、やる時間はあるな」(中村)

 現在の久保と同じ20代前半、中村は相当数のフリーキックを蹴り、自らの形をつかんでいった。横浜F・マリノスでは同期を呼びフリーキック練習に明け暮れた。レッジョ・カラブリアのひなびた練習場で、はがれかけのコンクリートの壁と向かい合った日々があった。

「若い頃の自主練は大きかった。がんがん練習をやれて、そこでフォームを作り上げた。久保くんは自分のキックを客観的に見れて、分析もできている。ここからどんどん進化していくはず」

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