連載:“大谷翔平の衝撃”でどう変わる? 日本人メジャーリーガーの現在と未来

前田健太が語る大谷翔平、指導者の夢「翔平は成績、技術もすごいけど……」

杉浦大介

第二の大谷翔平が現れる可能性はある

大谷の凄さは、技術面以上に体力面だとマエケンは見ている。バッティングに関しては「アメリカに来てから一気に覚醒した」という 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

――そんな日本人メジャーリーガーの中でも、昨シーズンの大谷翔平選手(エンゼルス)の活躍は歴史的なものだったと思います。1人の選手として、あの“二刀流”での成功をどのように見ていましたか?

 いやー、えげつなかった(笑)。もちろん成績、技術もすごいんですけど、投手と打者の両方をこなす体力がすごい。メジャーの日程は過酷で、どちらか1つだけでもしんどいのに、両方をやるというのはちょっと考えられなかった。これをこの先、何年も続けていくとすれば、特に体力面が大事になってくるでしょうね。

――前田選手のセンスなら、鍛えれば打撃と走塁も相当なレベルでできると思うのですが、いかがですか?

 プロ野球の3軍レベルくらいだったら、なんとかいけるかもしれない(笑)。僕は投手の中では打撃がいいとされていますけど、バッターとしてはプロになれないレベル。それを両方トップレベルでやるなんて、しかもメジャーでやってのけるなんて、ちょっと考えられない。(大谷選手は)本当に信じられないことをやっていると思います。

――日本時代から、大谷選手ならこれくらいのことをやりかねないと感じていましたか?

 ピッチャーとしてはすでに160キロの速球を投げていましたし、当時からめちゃくちゃすごかった。ただバッターとしては、日本で数回対戦しましたけど、あの頃はまだ日本ハムでも上位打線を任されるような選手ではありませんでした。確か6、7番くらいだったかな。それが今では、メジャーでも主力を張れるまでに成長しましたからね。打者としては、こっちに来てから一気に覚醒したように感じています。

――技術面での進歩は、どのあたりに見られるのでしょう?

 バッティングのことはあまりわからないですけど、ピッチャーとして受けるのは、やはり「ホームランバッターだな」という印象です。例えばマイク・トラウト選手(エンゼルス)のような一流の打者と対峙(たいじ)する時と同じ心構えで投げないと、甘いところに行ったらホームランになるというプレッシャーを強く感じます。特に去年は本当に穴がなかったので、僕が対戦する時は、二刀流の選手ではなく、“エンゼルスの主力打者”として見ていました。

――彼のような選手は今後、また現れると思いますか?

 20年前とか30年前、日本人が160キロの速球なんて投げられるわけがないと、みんなそう思っていましたよね。でも、誰かが一度投げたら、その後にどんどん出てくるようになった。それと一緒で、今後は翔平という(二刀流の)モデルがあることで、翔平を目指す選手の可能性を消す指導者も減ってくると思うんです。昔のように「投手か打者のどちらかに絞れ」ということにはならない。もちろん、あのレベルはなかなか難しいとは思いますけど、いつか出てくる可能性はあると思います。

――前田選手が実際にNPBで対戦した中で、MLBでも通用したのではないかと思う選手はいますか? 以前、自身のYouTubeチャンネル(マエケンチャンネル)で「すごいと思ったバッター」として、柳田悠岐選手(ソフトバンク)、内川聖一選手(横浜→ソフトバンク→ヤクルト)、坂本勇人選手(巨人)の3人を挙げていましたが。

 ギータ(柳田選手)は面白そうですね。日米野球の時にも言われていましたけど、あれだけ振る選手で、あれだけ飛ばせるというのはなかなかいないので。でも、「アメリカで活躍できそうな選手は誰ですか?」ってよく聞かれるんですけど、実際にこっちに来てやってみないと、正直わからない。2013年にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場した時から感じたんですが、投手で言えば、ボールとマウンドが合う、合わないで本当に変わってきますから。

――もう少し詳しく話していただけますか?

 日本ではめちゃくちゃいい投手なのに、WBCでアメリカのボールを使った瞬間に、同じように投げられなくなった選手がいました。日本ではフォークが良かったのに、ボールが変わるとまったく投げられなくなったり。実際、ボールが本当に合わない人は、代表から選考漏れしていましたね。バッターはちょっとわからないですけど、ピッチャーはボールとマウンド次第。変化球が日本とは全然違う曲がり方をしたり、まったく違う球種になったりもしますからね。もちろん、逆にアメリカでの方が良い投球ができるピッチャーもいますけど。

ムネさんのように振る舞えるキャラが誠也にも

言葉の壁はあっても、チームに溶け込む努力は必要だ。マエケンは元メジャーリーガーの川崎宗則さんを例に挙げ、コミュニケーションの重要性を説く 【Photo by Denis Poroy/Getty Images】

――前田選手の場合、ボールへの適応はどうでしたか?

 僕は気にならなかったですね。2シームがすごく曲がるし、このボールだったら、これまでとはちょっと違うピッチャーになれるかもしれないという感覚があったので、逆に楽しいなと(笑)。あと、僕は固いマウンドが大好きで、日本でももっと固くしてほしいってずっと言っていたくらいですから、こっちのマウンドは合っていましたね。ボールとマウンドに関して問題がなかったことが、僕が不安なくアメリカに行けた大きな理由の1つでもありました。

――気にならないというよりも、むしろ合っていた?

 ボールを握る際に、より集中しなければいけないので難しい部分もありますし、スライダーのように日本の方が投げやすかった球種もあります。ただ、2シームやチェンジアップは、アメリカのボールの方が投げやすかった。他の球種については、少し考えないといけないところはありましたが、それが不安材料にはなりませんでした。

――そのお話は次の質問にも関わってくると思いますが、日本人がメジャーで活躍するためには、どういった要素が必要になってくるのでしょう?

 圧倒的な技術があればわからないですけど、僕ぐらいのレベルだったら、とにかく日本の野球とはまったく別物と考えた方がいいですね。だから変化を恐れずに、対応できるかどうか。日本でやっていたことを継続してうまくいく場合もあるでしょうけど、そうならなかった時には、迷わず変えることです。また、生活面でのストレスはプレーにも影響するので、アメリカの文化、チームのルールに慣れていくことも大事。野球以外の部分も楽しんで、変化を恐れずにやることが成功につながると思います。

――チームになじもうとする努力は必要でしょうか?

 チームメイトとまったく関わらずに生きていくことも、不可能ではないとは思います。英語で何を言っているか理解できなければ、大げさに言うと、嫌われていてもわかりませんから(笑)。ただ、日本人でそこまでずぶとい人ってなかなかいないですよね。やっぱり、周りから何を言われているのかは気になるものだし、そういう意味で、言葉をあまり話せなくてもチームに溶け込む努力をしたり、うまく自分を出しながら、チームメイトに好かれるように振る舞ったりすることは、とても大事だと思います。

――そういったお話を聞いていると、インタビューの前半で話題に上がった鈴木誠也選手(カブス)は、難なくチームにフィットしそうですね。

 大丈夫でしょう。ムネさん(かつてブルージェイズなどで活躍した川崎宗則氏)みたいな感じでやるんじゃないかな(笑)。ムネさんは本当にすごいなと思いましたけど、あんなふうに振る舞えるキャラクターを、誠也も持っていますから。

――川崎さんの魅力は、パーソナリティーの素晴らしさでしょうか?

 通訳なしでメジャーの世界に飛び込んで、練習中も辞書を片手に英語を覚えてって……、なかなかできることではありませんよね。うまく話せなくても、間違っていても、恥ずかしがらずにどんどん相手に話しかけていくのがムネさんのスタイル。みんな野球の向上心は等しくあっても、英会話の向上心をあれだけ持っている選手は、当時はほとんどいなかったと思います。

――前田選手も日本であれだけの実績がありながら、いい意味でプライドが高すぎないというか、懐の深さがあったように感じます。

 僕が日本でどういう成績を残したかなんて、こっちの選手は知らないわけですから、ドジャースに来た時は「自分はルーキーなんだ」という気持ちでやりました。こっちでしっかり結果を残していけば、自然と周りが認めてくれるようになると、そんな意識でしたね。ただ、1年目はちょっと気を遣い過ぎていたのかもしれません。ベテラン選手よりも先に帰っちゃいけないのかなとか考えて、最初のキャンプの時は無駄に長く球場にいたりしましたからね(笑)。

――日本とアメリカの違いを示す、興味深いエピソードですね。

 ルーキーだから、あんまり派手な車には乗らない方がいいのかな、とか(笑)。日本って、まだまだそういうしきたりみたいなのがあるんですよ。キャンプの時もルーキーは一番早くグラウンドに来て、一番遅くに帰るとか。それでアメリカでも、とりあえず日本のルールでやっておけば間違いはないかなと考えたんです。ただ、徐々にチームメイトと仲良くなって話を聞くと、「そんなの全然気にしなくていいんだよ」とか、「日本でこれだけの実績があるんだから、もうルーキーじゃないよ」って言ってもらえたりもしましたね。でも、中には「アメリカではまだルーキーだ」という人もいましたし、まあ、1年目は何かと気を遣いながら生活していましたよ。

――振り返ってみて、前田選手はアメリカ向きの性格だったのでしょうか?

 向いているかどうかはわからないですけど、問題なく適応はできています。ストレスもありませんし、こちらでの生活を楽しめていますよ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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