前田健太、独占ロングインタビュー 復帰プランと後輩・鈴木誠也へのエール
チェンジアップはまったく違うボールになった
ツインズ2年目の21年シーズンはメジャー移籍後初の開幕投手も務めた。NPB時代と大きく変わったのがチェンジアップで、近年は空振り率も高まっている 【Photo by Jim McIsaac/Getty Images】
これまでの野球人生で、これほど長く休んだことはありませんでした。せっかくなので、この時間を使って手術する前の自分よりもさらに良くなるための努力はしています。筋トレで身体を大きくしたり、ダルビッシュさんに教えてもらったサプリメント系を試したり。
――手術の際、「野球人生があと1〜2年だったら手術はしかなかった。まだ先は長いから手術を受ける」と話していましたね。その残りの長い野球人生で、目標にしていることは何でしょう?
日米通算200勝(現在は156勝)が大きな目標としてあるので、それは達成したいです。あとは160キロのボールを投げること、ですね(笑)。
――160キロですか!(笑) そういえば手術直後に、「今後は野手として1Aから挑戦したい」とも話していましたね(笑)。
もちろん冗談ですよ(笑)。でも、今シーズンからナ・リーグもDH制になってしまって、コーチからは「(もう打席に立てなくなって)残念だね」って言葉をかけてもらいました。
――前田さんのように打撃が得意な投手は、新規導入されたこのユニバーサルDH制をどう捉えているんですか?
ピッチングに専念できるとか、(代打による交代がないため)長いイニングを投げられるというのは、(ナ・リーグのドジャースからDH制のある)ア・リーグに来て、初めて感じたことです。ただ、ピッチングにはどうしてもプレッシャーが付きまといますが、バッティングは僕の中で「100パーセント楽しみ」だったので、それができなくなってしまうのは寂しいですね。打席で他の投手の投げるボールを見ることも勉強になったので。
――日本でプレーしていた頃、ダルビッシュ投手が打席に入った前田投手に、あえて多くの球種を見せてくれたという話がありましたね。
はい。メジャーではクレイトン・カーショウ(ドジャース)やジェイコブ・デグロム(メッツ)の投げる球が見たいという想いがありました。それにバッティングが得意だったり、バントがうまくできたりといったことは、僕が他の投手に差をつけられる部分でもあったんです。長所が1つなくなってしまうようで、残念ですね。
――代打の機会はまだあるかもしれません(笑)。
延長20回とかまでいかない限り、なかなかないと思いますけど(笑)。
――話をピッチングに戻しますが、投球フォームや投球術など、メジャーでの6年間で、そして年齢を重ねる中で、変わっていった部分はありますか?
カーブ、チェンジアップはメジャーに来てから握りを変えました。特にチェンジアップはまったく違うボールになりましたね。こっちの打者はすごくレベルが高いので、年々通用しなくなっていくボールもあります。だから今まで投げてきたものにこだわるのではなく、握りを変えたりして、メジャーで主流になっているようなボールに、できるだけ近づける努力をしてきました。
――実際にチェンジアップは2018年頃からよく落ちるようになって、空振り率が上がり、使用頻度が増したというデータがあります。状況に応じて変化、適応してきた結果、今があるというわけですね?
やはり日本のバッターとメジャーのバッターでは、抑えられるボールが変わってきます。僕はストレートが速い方ではありませんから、こっちのバッターがよく空振りしてくれる変化球を身に付けることが大事だと考えたんです。以前はチェンジアップがなかなかうまく使えなかったので、空振りを取れるボールにするために修正を加えました。持ち球の変化という意味では、チェンジアップが一番大きいですね。
選手と監督、コーチの距離の近さが心地いい
ドジャースで初先発・初勝利を挙げた16年のパドレス戦も印象深い試合の1つ。4回にはホームランも放ったが、このバッティングが見られなくなるのは残念だ 【Photo by Andy Hayt/San Diego Padres/Getty Images】
いっぱいいますけど、有名なところではやはりマイク・トラウト選手(エンゼルス)かな。打ち取るのが難しい打者、対戦が多い打者は印象に残りやすくて、例えばドジャース時代だったら、当時ダイヤモンドバックスに所属していたポール・ゴールドシュミット選手(現カージナルス)や、ジャイアンツのバスター・ポージー選手(引退)。あと、同じくジャイアンツのブランドン・ベルト選手も苦手でしたね。パドレスのマニー・マチャド選手もそうですが、彼らは僕の投球傾向を読んで、同じボールではなかなか打ち取れなくなってくるんです。打席での余裕もあるし、そういう選手は投げていて難しいなと感じますね。メジャーでもトップのバッターには、そうなるだけの理由があるんです。
――では、これまでで最も忘れがたい試合を挙げるなら?
ワールドシリーズですね。ホセ・アルトゥーベ選手に同点ホームランを打たれたゲームです(編集部注:2017年のドジャース対アストロズ第5戦。2勝2敗で迎えたこのゲームを落として王手をかけられたドジャースは3勝4敗で敗退)。あそこで抑えられていたら、という後悔も少しあります。ただ、ワールドシリーズという舞台で素晴らしい体験ができましたし、だから余計にあのゲームは印象に残っています。
――一昨年のブリュワーズ戦で、9回にノーヒッターを逃したゲームは?
先発したゲームでいうと、確かに思い出には残っています。ただ、コロナ禍で観客が入っていなかったので、盛り上がりが感じられなくて。大歓声の中でマウンドを降りることができていたら、もっとインパクトは強かったんでしょうけど。だったら、ドジャースで初先発・初勝利を挙げたパドレス戦の方が、より印象深いですね。先発としてしっかり仕事ができましたし、ホームランまで打てて、ファン、チームメイトに良い印象を与えられました。やはりシーズンに入って勝つと、周りの見方も変わってくる。これで本当にチームの一員になれたと感じられたゲームでしたね。
――日本で8年、メジャーで6年を過ごし、様々な選手、指導者と関わってこられましたが、コーチングに関する日米の違いはどういったところに感じますか? 以前、自身のYouTubeチャンネル(マエケンチャンネル)で「ツインズではバント処理のサインプレーがないことに驚いた」と話していましたね。
日本ではシーズンに1回か2回、起こるかどうかもわからないプレーも必ず練習します。一方で、DH制のあるア・リーグのツインズではバントはほとんどないので、そういった滅多にないプレーを練習するより、1年に何度も起こることをやろうと考えるんです。日本のやり方ももちろん大切でしょうが、ツインズに来て、そういう考え方もありだなと思うようになりました。
――その他に、コーチ陣の指導法で興味深いことはありましたか?
アメリカではコーチの方から「これをやれ」とは、滅多に言いません。選手からコーチに「こうしたい」と相談し、それに対するアプローチをコーチが一緒になって考えてくれる。日本だとコーチから声をかけるケースが多いと思いますが、その違いは感じますね。
――それぞれの国に適したやり方があるので、一概に良し悪しは言えないと思いますが、そんな中でも前田選手が、指導面で「これは日本に持ち帰った方がいい」と感じる部分はありますか?
アメリカでは選手と監督、コーチの距離がすごく近い。自分はこう思っているとか、こういうことをやりたいとか、監督やコーチに何でも相談できます。その距離感は、すごくいいなって思いますね。
――監督の“オープンドアポリシー”については、それこそツインズのロッコ・バルデリ監督などは、特に強く感じますが、ドジャース時代のデーブ・ロバーツ監督も同じようなタイプでしたか?
ロバーツも「監督室のドアはいつでも開いているから、何かあったら相談に来い」というスタンス。最初はすごく違和感がありましたけどね。監督をニックネームで呼ぶとか、帰り際にコーチに手を振るとか、日本ではあり得ないわけじゃないですか(笑)。ただ、慣れてくるといろんな相談もできたし、自分のピッチングについてもたくさん話せるので、それが心地良くなってきましたね。
――メジャーで学び、変わった部分は他にもありますか?
データを通して、自分の投球フォームや投球の傾向を知ることが、すごく大事だと思うようになりました。僕はずっと感覚派というか、自分の感覚を信じてやってきたんです。だからドジャースの1年目とかも、相手のデータは見ても、自分のデータはあまり気にしていませんでした。それがツインズに来てからは、自分がどういうピッチャーで、どういうボールを投げているのかを、客観的なデータで知るようになった。もっとも、こういったデータの活用は、最近では日本でも多くのチームがやっているのかもしれませんが。
――フィールド以外の面で、日米の違いを感じるところは?
食事は日本の方がいいですね(笑)。球場のご飯も美味しいですし。一方で移動は、アメリカの場合はチャーター機で遠征先に飛べるので楽ですね。