W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

最終予選は「地獄の中でつかみ取るもの」 勝つために守田英正は厳しいことも言う

飯尾篤史

オールラウンダーと言われるのは好きじゃない

異国の地でチームを勝たせるという意識が守田のプレーの幅を広げた。今や攻守両面で輝ける、総合力の高い選手となった 【写真:REX/アフロ】

――「3人の中で自分が一番柔軟で、一番前に行ける」というコメントは、川崎フロンターレ時代には想像がつかなかったというか。川崎時代のイメージはアンカーでしたから。移籍したサンタクララでボックス・トゥ・ボックスのプレーを求められ、前への意識を強めて成長した証だと感じます。

 僕もそう思いますね。川崎では完全に役割があって、それを全うしていればよかった。正直、僕がいた頃の川崎は本当に強かったので、これだけをやっていれば勝てる、というのができ上がっていました。だから、違うチームに行ったときに自分に何ができるかが、サンタクララでのテーマのひとつで。

 ポルトガルリーグにはビッグ3と言われるポルト、スポルティング、ベンフィカがいて、その下にブラガがいて、あとは混戦なんです。サンタクララはずっと2部だったこともあって、残留争いをする可能性のあるチーム。僕は助っ人として来たわけで、チームを勝たせないといけない。それには結果を残さないといけない、前に行かないといけないと意識が変わってから、プレースタイルが磨かれていったと感じます。そういう姿は、代表戦で少なからず見てもらえているんじゃないかなと思います。

――流通経済大から川崎に入った頃は守備面にストロングポイントのある選手でしたが、川崎でビルドアップや技術、立ち位置を身につけ、サンタクララに所属する今は、全方位的に優れたオールラウンダーというイメージがあります。

 今の自分をひと言で表すなら、そうなると思います。ただ、世界で活躍する選手は、そのオールラウンドのそれぞれの数値がもっと高い。どこを目標に、どこを基準にしているかの問題なんですけど。それに、僕自身はオールラウンダーと言われるのは、あまり好きじゃないんですよね。特徴のない選手という感じになってしまうので。

――オールラウンドに能力を高めながら、でも強みはドンと突き抜けているというのが理想?

 うん、それが理想だと思いますね。

――ちなみに田中選手が以前、「川崎でしか通用しない選手になりたくなかった」と言っていました。守田選手にもそうした感覚はありますか?

 めちゃくちゃありますね。それは川崎から海外に出た選手はみんな、(三笘)薫も(旗手)怜央もあると思います。ACL(AFC チャンピオンズリーグ)で勝てなかったから、川崎のサッカーは日本でしか通用しないと言われてしまったり、個人としても、チームが強かったからJリーグで勝てていたけど、日本代表に行って、サッカーが変わると活躍できないんじゃないかという目で見られたり。だからこそ、ほかのチームで何ができるのかという気持ちを強く持って、サンタクララに来ました。

――そういう意味では、田中選手と一緒に起用されたことに加え、代表で自分のアイデアや考えを伝え、自分のプレーを出せたことは、自信になったのでは?

 それはありますね。川崎じゃなかったら間違いなく今の自分はないですし、そのエッセンスが自分の中にあるからこそ、ポルトガルでも、代表でも活躍できている。そうした川崎のエッセンスを違うチームでも出せているのは、自信になっていますね。

――21年9月、オマーンとの初戦に敗れたあとの取材対応の際に、守田選手がチームの抱えている問題をしっかり指摘し、「ピリッとさせたい」と話していたことを頼もしく感じました。発言量も増えていますが、覚悟や責任感がそうさせているのでしょうか?

 海外に出てから、そういう意識を持って、自分を変えていきたいという思いはありましたね。代表でも……川崎時代に代表に入ったときも、そういう気持ちはあったんですけど、どこか遠慮はあったのかもしれないです。でも今は、チームが良くなるなら、言うべきことは言っていきたいという気持ちがあります。言いやすい雰囲気、受け入れてくれる雰囲気もありますし。あと、ポルトガルリーグって日本での放映がないから観てもらえないんですよね。そういうことも含めて、取材の場でもしっかり発信していきたい。ポルトガルでこういう活躍をしたから、代表での評価につながっていると知ってもらいたい気持ちもありますね。

「これ」という筋を一本持っておいた方がいい

試合を重ねるごとにW杯アジア最終予選の厳しさを、身をもって感じたという。現在5連勝中だが、チームに緩みは一切ない 【写真:ロイター/アフロ】

――日本代表は1勝2敗の窮地から5連勝で、一気にW杯出場に王手をかけました。でも、5連勝って簡単じゃないと思います。相手も日本のホームでは引き分けでもいいと思っているでしょうし。いわゆるゾーンに入っているような感覚はあったのでしょうか?

 最初の3試合で、本当に苦しくなってしまって。僕にとっても初めてのW杯最終予選だったので、基準がわからなかった。なんとなく難しいんだろうなと感じていたんですけど、まさにこれがそうなのかと。でも、サウジアラビアに敗れてもチームの雰囲気は悪くはなかったんですよね。下を向いている選手もいなくて。本当に1試合1試合クリアして、気がつけば5連勝という感じです。5連勝した今も、誰も必要以上に喜んでいないですし。

――ロシアW杯を経験している先輩たちのチームをまとめる力や雰囲気作りについては、どう感じていますか?

 佑都さんやサコくん(大迫勇也)、(原口)元気くん、みんなそうですけど、めちゃくちゃ声を出して、引っ張ってくれています。最終予選が始まる前にも、「最終予選って本当に難しいから。2次予選とはわけが違うから」という話をしてくれたんですけど、試合を重ねるうちに、「なるほど、こういうことやったんか」と身に染みて感じました。彼らが言っていたのは、「W杯はイベントごとで、とにかく楽しい」と。もちろん緊張やプレッシャーもあるけれど、自分たちが積み重ねてきたものをぶつける場だから、楽しさしかないと。一方、最終予選は勝って当たり前、負けは許されない戦いなので、「地獄の中でつかみ取るもの」だと言っていて。今はその表現がすごくわかるというか。とにかく必死です。

――では、最後に。W杯の出場権をつかむのが大前提ですが、そろそろW杯本番に向けた戦い方を考えていかなければなりません。W杯に向けて整理していきたいことは?

 カウンターを狙うチームなのか、ボールを圧倒的に握りたいのか、まだはっきり決めなくていいんですけど、高い基準でなんでもできちゃう分、これでいこうと一本に絞れない。どこを強みだと認識して、それを伸ばしていく作業は、これからまだやれる部分だと思うので、突き詰めていきたいなと。

 あとは、各々が個の力を上げることが重要だと思っていて。チーム力を上げるには、どうしても集まらないといけないんですけど、集まる回数も少ないですし、集まっても2、3日しかない中で整理するのは限界がある。それよりも、各々が所属クラブで自分の実力を伸ばす方が圧倒的に簡単だと思うんです。そこが上がれば、代表チームの底上げになる。そこが一番、できる部分かなと思います。

――強みというところで言うと、なんでもできることが強みになりませんか? 守田選手と田中選手がピッチに立つようになってからボールを握る力が高まりましたが、古橋亨梧選手、浅野拓磨選手、伊東純也選手のスピードスターを並べてカウンターを繰り出すこともできる。守田選手が好パフォーマンスを発揮した21年3月の韓国戦では、高い位置で奪ってからのショートカウンターが利いていました。出る選手によってスタイルが変わるのは、このチームの魅力だなと。

 その捉え方で問題ないと思います。誰とセットで出るのか、誰と一緒に立っているのか、あと戦況によって、やりたいことが本当に変わってくるんですよね。自分もボランチなんですけど、誰と組むかによって、役割が本当に変わるので。だから、柔軟に戦えるようになれればベスト。そこを目指していかないといけないのは間違いないんですけど、そうした中でも「これ」という筋を一本持っておいた方がいいと思います。時間がたくさん残されているわけでもないので、ある程度ここを伸ばしていく、ここを強みにしていくという部分を絞って積み重ねていく、成長していくことが必要だと思いますね。

(企画構成:YOJI-GEN)

守田英正(もりた・ひでまさ)

1995年5月10日生まれ。大阪府出身。金光大阪高等学校から流通経済大学に進学し、2018年に川崎フロンターレに加入した。プロ1年目からボランチのポジションをつかむと、同年に日本代表に招集された。21年1月にポルトガルのサンタクララに移籍すると、デビュー戦でゴールを決めるなど、すぐにチームにフィット。日本代表でも21年3月の韓国戦で攻守両面にわたる活躍を見せて、地位を確立した。21年9月に開幕したカタールW杯アジア最終予選では当初、控えだったが、オーストラリアとの第4戦でスタメンに抜てきされ、チームを勝利へと導いた。
【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ(17時30分配信開始)
DAZNにて独占配信

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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