連載:プロ野球選手の「攻略本」

“失敗しない男”広島・栗林良吏 「もっとも勇気がいる」意外な攻略法とは

2021年、新人としてセーブ数歴代最多タイの数字を挙げ栗林良吏。早くも球界を代表するクローザーとなった 【写真は共同】

 NPBでトップを走る選手たちをデータから徹底検証。その中で見つけた選手の長所と攻略法を当連載「プロ野球選手の攻略本」にて紹介する。今季はこの「プロ野球選手の攻略本」を手元に置いて、アナリストの気分で観戦を楽しんでみてはいかがだろうか。今回は広島・栗林良吏の攻略法に触れていく。

※リンク先は外部サイトの場合があります

 昨季、歴代新人最多タイとなる37セーブを記録した栗林良吏。防御率0.86に加えてセーブ成功率100%と、文句なしの活躍で新人王に輝いた。東京五輪では5試合すべてに救援登板し、侍ジャパンの金メダル獲得に貢献。プロ入り1年目から球界を代表するクローザーの座に駆け上がった。

歴代NPB:シーズン奪三振率ランキング

【データ提供:データスタジアム】

 そんな栗林の強みとして挙げられるのが、奪三振の多さである。球威抜群のストレート、そしてストンと落ちるフォークのコンビネーションで三振の山を築き、奪三振率13.93をマークした。これは佐々木主浩氏ら歴代の名クローザーが並ぶランキングで7位という快挙であり、ルーキーイヤーからすさまじい奪三振力を発揮したことが分かる。

 では、この難攻不落の守護神から、いかにして得点を奪うかを考えていきたい。圧倒的なピッチングを見せた栗林ではあるものの、四球が多い点は攻略のカギとなるだろう。昨季許したヒットが23本であるのに対し、与四球はそれを上回る28個。出塁だけを考えたときは、ヒットよりも四球を狙う方が理にかなっているとも言える。

2021年:ストライクカウント別ボールゾーン投球割合

【データ提供:データスタジアム】

 そこで、ボールカウントを増やすためにスイングを極力控えるという作戦はどうだろうか。栗林のボールゾーンへの投球割合は57.8%で、これはセ・リーグで500球以上投げた投手の中でもっとも高かった。特に0ストライク時は、一般的な投手と比較してもボールゾーンへの投球が多いため、むやみに初球からスイングするのは避けたいところである。

 さらに、2ストライク時には65.3%までボールゾーンへの投球が増え、ますますヒットを放つのも困難になる。より慎重な選球判断が求められるが、これだけの奪三振力を誇る投手ともなると、ボール球の見極めやスイングしてファウルで逃げることも簡単な話ではないだろう。

 よって追い込まれた際は、スイングするゾーンをある程度限定して対応したい。具体的な目付けは、ゾーンの高めである。なぜなら、2ストライクではフォークが投球の54%を占め、リリースされた直後に打者が低めのストライクと感じるような投球は、そこから落下してボールゾーンとなる可能性が高いからだ。2ストライクに追い込まれながらも出塁のチャンスをうかがうのであれば、高めのストライクには食らいついていき、低めのゾーンは見逃し三振でも構わないというある種の潔さが必要になりそうだ。栗林は3ボールになると被出塁率が.725(リーグ平均は.558)となるため、そこまで持ち込めれば活路を見いだせる。

 そして、何とか出塁できたランナーを得点圏まで進めることができたとしよう。ここからいよいよ、どのようにタイムリーを放つかという話に入る。

2021年度後半戦:球種別割合

【データ提供:データスタジアム】

 繰り返しになるが、栗林はとにかく奪三振が多い。それゆえ、走者をホームにかえそうとするなら、追い込まれる前に決着をつけたいところである。具体的には「初球、2球目のカットボール」が狙い目となるだろう。栗林の場合、ストレートでストライクが取れないことで四球を与えピンチを招くケースが多い。その影響からか、ピンチではカットボールでストライクを取りに来る傾向が後半戦では特に見られた(上図参照)。ストレートとフォークの質は球界最高峰であるものの、カットボールは第3の球種。このボールが投げ込まれるタイミングこそ、我慢から攻めに転じるチャンスだ。カットボールは持ち球の中でもっともバットに当てやすい球種であるため、あらかじめ狙いを定めれば、ヒットが期待できるのではないだろうか。

 ただし、注意点も付記しておこう。そもそも栗林はピンチを招く機会があまりなく、配球のサンプルが非常に少ない。今回は限られたデータで攻略法を導き出したが、今季もこうした傾向が見られるのかは、観戦時のポイントにしていただきたい。

 今回はヒットの確率と四球を獲得する確率とを天秤(てんびん)にかけ、出塁のためにはあえてバットを振らないことも有効ではないか、と述べた。実際には、打者がスイングしない雰囲気をバッテリーが嗅ぎ取ったときに、甘い球でストライクを奪うといった駆け引きもあるだろう。バットを振らないという行為は誰にでもできるが、それを貫き通すことは勝負を放棄したようにも映りかねない。ある意味、もっとも勇気がいる作戦だろう。それだけの割り切りなくして、防御率0点台のクローザーを攻略することは困難ということでもある。デビューからここまでセーブ失敗のない栗林だが、果たして今季は攻略するチームが現れるだろうか。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント