連載:憲剛と語る川崎フロンターレ

中村憲剛×小林悠×登里享平×大島僚太【後編】 J1優勝で引退を肯定【憲剛と語る川崎フロンターレ05】

原田大輔

川崎フロンターレが2017年にJ1初優勝した喜びをともに分かち合った中村憲剛氏、小林悠、登里享平、大島僚太の4人は、タイトルを獲ったことで得たものについて熱く語り合ってくれた 【佐野美樹】

 「One Four Kengo The Movie〜憲剛とフロンターレ 偶然を必然に変えた、18年の物語〜」の公開を記念して実現した中村憲剛氏と、小林悠、登里享平、大島僚太のスペシャルトーク。

 後編では、タイトルを獲ったことで彼らやチームが得たものについて聞いた。また、中村憲剛氏が引退し、不在となった今シーズン、彼らはどのような思いで戦い、そしてJ1優勝を成し遂げたのか。意志を受け継いだ3人の思いに迫った。

やってきたことが正解だと知り、すべてが変わった

タイトルを獲ったことで積み上げてきたものや取り組みが確信に変わったと、登里享平は語る。その継続が続けてタイトルを獲得する要因になっていると教えてくれた 【佐野美樹】

――映画「One Four Kengo The Movie〜憲剛とフロンターレ 偶然を必然に変えた、18年の物語〜」では、川崎フロンターレが2017年にJ1で初優勝する瞬間も描かれていました。憲剛さんを含めた4人は優勝できなかった時期も経験しています。次々とタイトルを獲得できるようになった今、あらためて聞くと、タイトルを獲る前と獲った後で何が変わったのでしょうか?

中村憲剛(以下:憲剛) 個人的には、獲れないのには獲れないなりの理由があったんだなと思いました。

登里享平(以下:登里) 09年に加入した僕も、タイトルを獲れない時期が長すぎて、数え切れないほど、何が足りないのかと自問自答し、チームメートとも会話を重ねてきました。その一方で、優勝したときには、これまでの取り組みが間違いではなかったと思うこともできました。憲剛さんの言葉の意味にも含まれているのでしょうが、本当に力不足だったところはあると思います。それでも積み上げてきたものや、負けた試合から学んだもの、今までの取り組みが、タイトルを獲ったことで確信に変わったように感じています。そこで得た確信を今まで継続することができたから、続けてタイトルを獲ることができているのかなとも思います。

大島僚太(以下:大島) 僕の中ではまだ、「ここが」とか「これが」というものは正直、得られていないのですが、最低限やらなければいけないことや試合の90分の中でチーム全員がやらなければいけないことは見えたように思います。その最低限をチームに所属する全員がやらなければいけないからこそ、練習から求め続けなければいけない。誰かひとりでも甘くなれば、そこから簡単に崩れていくものだとも思うんです。それをみんなも感じていたから、練習から厳しい雰囲気作りをしていたように感じています。

 タイトルが獲れたときには、それを試合に出ている選手、出られていない選手も関係なく、全員が高いレベルを追い求めながらやれている。ここは今後も絶対に続けていかなければいけないと思います。今後も、絶対に(タイトルを)獲れるかと言われるとアレですけど(苦笑)、タイトルを獲ったことで、最低限やらなければいけないベースがあることは、確信に変わったかなと思います。

小林悠(以下:小林) ノボリ(登里)と僚太が話していないことで言えば、タイトルが獲れるようになる前は、シーズンの要所、要所にある勝負どころで自分たちの力を出し切れていなかったように思います。シーズンは長いので、その勝負どころでバチンと勝ててしまえば、そのあとの何試合かはその流れで勝てることもある。以前は、そこで負けてしまったり、グズついてしまい、勝ち点を伸ばすことができなかったのかなと。

 今シーズンで言えばひとつ、名古屋グランパスとの連戦がそうですよね。いわゆる大一番と言われる試合にしっかりと勝ち切る。試合に向けた気持ちの作り方はみんな、全試合、一定に保ちたいんです。でも、長いシーズンを見たときに、ここは絶対に落とせないというところで、今のフロンターレは力を出せるようになりました。それは試合に出ている選手だけでなく、選手全員からも感じるようになりました。

憲剛 3人が話してくれたことも含めて、自分たちがやってきた取り組みが正解だと知ったことですべては変わりました。

小林 本当にそうですよね。タイトルが獲れないときは、何が正解かが分からなかったけど……。

憲剛 獲れないと積み上げてきたことがダメだったのかなって思ってしまう。でも、獲れると、これで合っていたんだなと思うことができる。おそらく(タイトルを)獲るのと獲らないのとでは、得られる経験値が比べものにならないくらい違うと思います。

――ということは、タイトルを獲った経験がある今、獲れなかったときの自分たちには甘さがあったと感じているのでしょうか?

憲剛 僕はあったと思います。

登里 同じようなことを、以前、コバくん(小林)も言っていたよね。ふたりで話したときに、負けたあとに「気持ちを切り替えよう」と言うけど、すぐに切り替えられないくらいこの試合に、この一戦に懸けていたのかって。

小林 その話をしたこと、よく覚えているかも。確か16年だったよね。勝てばステージ優勝を決められた試合で、憲剛さんが(ケガで)いなくて、引き分けに終わったんだよね。試合のあと、みんなは「切り替えよう」って話していたけど、その一戦がどれだけ大事な試合で、この試合にすべてを懸けていたのかって。それくらい、自分は簡単に気持ちを切り替えられなかった。そう思うと、今は大事な試合でみんながグッと集中するというか、勝負どころが分かっているように感じています。

登里 そういう意味では、タイトルを獲るまでは優勝が懸かった試合で、みんないつも通りのプレーをすることができなかったけど、今は大一番でもある意味、リラックスして試合に入ることができている。そこはタイトルの味を覚えたことでの経験値かもしれません。

大島 僕自身としては大きく何かが変わったわけではないのですが、ひとつ挙げるとすれば、相手チームの見え方が変わったように思います。以前は、鹿島アントラーズと対戦するときには、試合前から「強そうだな」「嫌だなあ」って思ってしまっていましたから。

小林 僚太が言う、その気持ち、ちょっと分かるかも(笑)。

大島 でも、タイトルを獲ってからは、そう考えたり、思ったりすることがなくなりました。

登里 これは妻が言っていたんですけど、等々力で整列して入場してくるときの僕らと相手チームとの顔つきが全然違うときがあるって言われたんです。相手チームの選手たちの表情を見ると、少しこわばっているというか……。

憲剛 それだけ今のフロンターレの選手たちは堂々としているということか。それはリアルな意見かもしれないね。

登里 僕からしてみたら、自分とか、僚太とか、(橘田)健人は小さいから、普通に考えたら強そうには見えないだろうなって思っていたんですけどね(笑)。

憲剛 実は今シーズン、俺も外から見ていて、みんなから同じことを感じていたんだよね。まさに自信が表情に出ていたというか。その顔を見て、「この試合も勝つな」って確信していたから。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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