連載:憲剛と語る川崎フロンターレ

中村憲剛×小林悠×登里享平×大島僚太【後編】 J1優勝で引退を肯定【憲剛と語る川崎フロンターレ05】

原田大輔

中村憲剛がいなくなったからと言われたくなかった

J1で連覇した今シーズン、ケガの影響で試合に出場できなかった大島僚太に、中村憲剛氏から託された思いを聞けば、その目には涙が……。話ができる状況を待つ先輩3人の姿に絆の強さを感じた 【佐野美樹】

――今シーズンの話も聞かせてください。今シーズン、タイトルを獲れなければ、おそらく「中村憲剛がいなくなったからだ」と言われていたように思います。そのプレッシャーは選手たちにもあったのでしょうか?

小林 僕はそこが逆にモチベーションでした。憲剛さんだけでなく、守田(英正)もいなくなり、シーズン途中には(田中)碧も(三笘)薫も移籍しました。客観的に見れば、かなり厳しい状況にあるじゃないですか。でも、それが理由でタイトルを獲れなかったとは、絶対に言われたくないと思ってやっていました。

登里 僕もコバくんと同じ思いで今シーズンは戦ってきました。ただ、キャンプのときから、めっちゃ違和感はありましたけどね(笑)。

小林 キャンプ、めっちゃ違和感あったよね(笑)。

憲剛 俺も(キャンプ地の)沖縄に行っていない自分に違和感があった(笑)。

登里 コバくんが若手選手や新加入選手と積極的にコミュニケーションを取っている姿を見て、憲剛さんがいなくなったことを感じると同時に、自分もそれをやらなければいけない立場なのに、と……。

憲剛 ノボリは昨年負ったケガの影響で、キャンプの時期はリハビリしていたからね。

登里 そうなんです。今までは、縁の下の力持ち的な存在でいることが、自分としても心地良かったんですけど、副キャプテンになったことも含め、これからは自分が率先してチームを引っ張っていかなければいけないという覚悟を持っていたんです。それもあって、今シーズンは、自分のことだけではなく、チーム全体のことを考えながら送ってきたシーズンでもありました。

――大島選手も、憲剛さんが引退して迎えた今シーズン、やはり意を決するところはありましたか?

大島 そうですね。(21年)1月1日の天皇杯決勝のあと……今、思い出しても泣きそうなんですけど……。

憲剛 え……僚太……ウソでしょ。

登里 僚太、深呼吸しなよ。

憲剛 でも、うれしいよね。そこまで思ってくれていることが。だから、僚太の言葉が出てくるまで待ちたいな。

小林 僚太の言葉が出てくるまで、僕が変わりに話しますけど、憲剛さんが引退して迎えた今シーズン、個人戦術のことについては、僚太やノボリが率先して、みんなに教えてあげている姿をよく見ていたんです。それもあって(橘田)健人をはじめ、みんなが僚太のところに話を聞きにいっていたんですよね。

憲剛 俺はあまり僚太には教えていなかったんだけどね。もちろん、多くを伝えたけど、言葉で説明する前に、まずは自分の目で見て、自分で考えて盗めと言っていたから。でも、今シーズンも中盤のクオリティーが維持されていたのは、僚太がいたからだと思っていた。きっと、いろいろなところで、いろいろな選手に僚太がアドバイスを送っているんだろうなって分かってたよ。

小林 僚太、話せる?

大島 ……はい。天皇杯決勝が終わったあとの記者会見で、僕は「憲剛さんのことを愛しています」という言葉を残したのですが、それくらい大きな存在でした。憲剛さんから直接、引退の報告を受けたときも、「もっと一緒にサッカーしたいです」という言葉をぶつけさせてもらいましたし、そのなかで憲剛さんが決断されて、それを自分自身も何とか受け入れて。でも、僕、今年、サッカーが全然、できなかったので……。

――大島選手としては憲剛さんの意志を受け継いで、もっとこうしたいという思いがありながら、それができなかったことが。

大島 悔しかったんです。憲剛さんに教えてもらってきたことを、今度は自分がチームに対して伝えていきたいという思いがありながら、ほとんど何もできなかったことが悔しかったんですよね……。

憲剛 僚太がいてくれたことで、みんな心強かったと思うよ。3人だけでなく、今シーズンを戦っているみんながJ1優勝という結果を出してくれたことで、自分がみんなに伝えたかったことは伝わっていたんだなと、その結果を持って証明してもらえた。確かに僚太は、ケガもあって試合にはあまり出られなかったかもしれないけど、健人をはじめ、若手にアドバイスを送ってくれていたように、それぞれを成長させてくれたと思っています。ノボリは声で周りを動かし、ピッチでも体現してくれていた。悠は途中出場が多かったかもしれないけど、それでも2桁得点を挙げたし、今年もチームを勝たせるエースとしてのゴールが多かった。

 自分がいなくなったあとのフロンターレがこうなったらいいなと望んでいた形を、みんなが結果で証明してくれた。だから、やっぱり、このタイミングで引退を決断したことは間違っていなかったんだなと思うことができた。みんなが俺の引退を肯定してくれたんだよ。

登里 僕らからしてみたら、相当なプレッシャーでしたけどね(笑)。

小林 何、このタイミングで抜けるんだよって思ってましたけどね(笑)。

大島 ホントですよ(笑)。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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